ロンドン五輪レビュー

2012.08 :: ロンドン五輪レビュー

ロンドン五輪レビュー

フェデラー会場となったウィンブルドンは大会の後、芽が出た芝の種をまくことで、レギュラーの大会ですり減った芝の再生を図ったというのだが、見た目上では生え揃っていた芝も、実際には非常に「スリッピー」だったと、複数の選手たちからコメントが出されていた。だが、芝の大会というのは多かれ少なかれ、みな状況は同じ。逆説的に言えば、ウィンブルドンだけが特別で、例えばドイツのハレやロンドンのクイーンズクラブなどの前哨戦と、今回のロンドン五輪は同じような状況だったと考えればいい。芝の得意不得意はあれど、特定の選手にだけ有利になったり、逆に不利を被るということをあまり深く考える必要はない。お互いに条件はイーブン。置かれた状況を有利に変えられる意識と技術を持った選手が勝者となるのが芝の戦いだ。

デルポトロ今大会の分岐点となったのは、やはりフェデラーとデルポトロの準決勝だろう。4時間26分、最終セットが19-17という大接戦は、3セットマッチとしては男子のツアー史上最長記録となった。
フェデラーはこの試合で精魂を使い果たし、決勝ではマレーに敗れた。だが、この準決勝はフェデラーだったからこそ勝ち切れた試合とも言えた。デルポトロは準々決勝で多彩な技を持つ錦織を、その強烈なボールで沈黙させ、今季6度目となるフェデラー戦に入って来ていた。自信を深めての一戦だったはずだ。しかし、デルポトロ特有の伸びるストロークに対しても、フェデラーは簡単にポイントを許さない。それを繰り返すことで、デルポトロから自信を奪い、無理をさせ、精神的に追い込む。フェデラーが「王者」と呼ばれた理由を、まざまざと見せた試合だったと言っていいだろう。

錦織圭日本の錦織は、日本代表としての意識を強くして五輪に臨んでいた。テニス界における五輪の存在感については、今も様々な議論があるが、「世界一の規模のスポーツ大会」という場に身を置き、五輪に全てをかける他競技の選手たちの姿を目の前にして、血がたぎらないアスリートはいない。錦織もまた、自身の全てをかけて戦った一人と言っていいだろう。1回戦でトミッチ、2回戦ではダビデンコを下して、3回戦で当たったのはダビド・フェレール。第1セットから飛ばしに飛ばした錦織は、なんと6-0でセットを取った。しかし、当の錦織は「これでファイナルになる」と考えていたというから驚く。冷静に状態を分析し、戦術を組み立てる。気持ちが引いたというのではなく、第1セットの状況を落ち着いて考え、最終的に試合をまとめていく。トップ選手としての錦織の成長の跡が見られた一戦だった。

伊藤竜馬1回戦から超級のビッグサーバーであるラオニッチとの戦いとなった伊藤竜馬はやや不運だったが、彼の場合は、春先の努力を念願だった五輪の舞台に結びつけたという点をまず評価しなければなるまい。「サーブを返すだけでも大変だった」と言いつつ、「ストローク戦では優位に立てた」と試合を振り返っているのもまた、彼らしく前向き。次のリオ五輪では28歳。年齢的に最も円熟する時期で迎えられると考えられれば、今回の経験も、後々大きな財産になるに違いない。



セリーナ・ウイリアムズ女子はセリーナ・ウイリアムズの熱意と強さばかりが目立った。決勝ではシャラポワを相手にあわや完封という圧倒的なパフォーマンスを見せ、自身初のシングルスの金メダルを獲得した。「これで、テニスで得られるものは全て手にしちゃったのね」と屈託のない笑顔を浮かべた彼女だが、今季の彼女の足跡を考えれば、この結果も妥当と言える。

例年以上に大会数を増やして実戦経験を積み、身体もシェイプして鋭さを上げた。サービスはもちろんだが、彼女のリターンの正確さと強さは、芝では相手にとてつもない重圧となり、その存在感をより大きなものにしていた。彼女が今の状態を維持できれば、少なくとも芝では、しばらく彼女に勝てそうな選手の名は挙げにくい。

アザレンカそれはアザレンカにしても同じこと。準決勝でセリーナと対戦したアザレンカは、サービスでもリターンでも、セリーナにいいようにプレッシャーをかけられ、わずか3ゲームを取るのが精一杯だった。最終的には3位決定戦でキリレンコを破って銅メダルを獲得し、面目を保ったが、セリーナとの間の差はまだまだ大きいことを改めて見せつけられた形になった。だが、これも彼女にとっては何もマイナス要因だけではない。全豪を取り、ナンバー1になって連勝を続けていた頃には「今年はこのままアザレンカが全部取るのでは?」と言われたりもしたが、彼女のテニスはまだまだ完成途上。自らに足りないところを思い知らされる相手との対戦というのは、23歳の彼女にとっては大きな財産と言ってもいい。痛い敗戦は選手を大きく鍛える。

マックス・ミルニとのコンビでミックスダブルスの金メダルを取ったのも、「転んでもタダでは起きない」という意味で大きい。アザレンカの今後にはさらに注目していきたい。