2月10日から12日にかけて兵庫県三木市のブルボン・ビーンズドームで行われたデ杯ワールドグループ1回戦日本×クロアチア。日本にとっては27年振りのワールドグループ復帰で、2週前まで行われていた全豪オープンでベスト8に入った錦織 圭が出場することもあり、大会前にチケットが完売するほどの大人気。会場には、応援グッズを持ったたくさんの観客が詰めかけた。
相手のクロアチアは、ATPランキング20位(1月16日付け。以下同)のチリッチ、30位のルビチッチの欠場が事前に発表されたものの、36位のドディク、57位のカルロビッチ、ダブルスランキング82位のゾブコという布陣。対する日本は、錦織26位、添田 豪99位、伊藤竜馬117位、杉田祐一209位。クロアチアに勝つには錦織がシングルスで2勝し、もう一つをシングルス2本とダブルス1本のどこかで取る必要があった。
そして1日目の第1試合、添田×ドディク。添田は最初の2セットを先取されるも、続く3セットを連取し大逆転で日本に1勝をもたらす。1981年にデ杯がワールドグループ制を取り入れて以来、日本は過去1981年、1985年の2度ワールドグループ1回戦を戦っているが、どちらも0勝5敗。つまり、今回の添田の勝利が日本にとってワールドグループでの初勝利となった。
この添田の勢いを継ぐべく、第2試合に登場したのが錦織。相手は、208cmの長身から打ち下ろすサーブが武器のカルロビッチ(現在、男子選手最速の時速251kmのサーブ記録を持っている)。いくら速いサーブを持っているといえ、一旦ラリーになると錦織のほうが上のため、ホームの声援を受ける錦織が勝ってくれるはずという期待があった。しかし、「このデ杯期間中は、いつもよりサーブの調子が良かった」と言うカルロビッチは、時速こそ205km前後と自身の最高速には届かないものの、角度をつけたサーブでサービスエースを量産(18本)。またカルロビッチは、ラリーになってもスライスのアプローチを使ってネットダッシュを試みたり、リスキーなスピードボールで早めに勝負に出る戦術をとったため、ラリーを続けていく中でゲームを作る錦織にとっては「リズムがとりづらく、イージーミスが多かった。カルロビッチは、サーブを今までに経験したことのない高さからコースよく打ち分けてくるので、角に入れられるとどうしようもなかった。せっかく添田君が第一試合で2セットダウンから男気を見せて逆転勝ちしてくれたのに、自分の試合はふがいない内容だった」と終始試合の流れを引き寄せることができず、4-6、4-6、3-6で敗退。「インドアだったからサーブが打ちやすかった」と言うカルロビッチのコメントからも、ホーム開催にしては日本のエース錦織よりも相手のカルロビッチが得意とする環境になってしまったのが分かる。
そして、翌土曜日は、ダブルス1試合のみ。クロアチアは、このダブルスが勝負ポイントになるとにらみ、当初予定されていたゾブコをドディクに替えて、カルロビッチ/ドディクの主力2人体制で臨んできた。これに対し、日本の竹内監督は「錦織/伊藤ということも考えたが、お互いダブルスとしての動きをやってきた伊藤/杉田のほうがチャンスがあると思った」と当初の予定通り、伊藤/杉田を起用。しかし、この日もカルロビッチのサーブが絶好調。
結局、日本チームがブレークに成功したのは第3セットのドディク・サーブの一度だけで、4-6、4-6、6-3、3-6で敗退。伊藤も杉田もそれぞれいいリターンでプレッシャーをかける場面もあったのだが、「僕が良ければ祐一(杉田)がダメで、祐一が良ければ僕がダメとかみ合わなかった」と試合後に伊藤がコメントしたように、カルロビッチ・サーブで0-40と3ブレークポイントなどもあったが、そのチャンスをものにできなかったのが残念だった。それでも竹内監督は「明日シングルスを戦う2人を、今日3時間以上コートに立たせたことが、明日につながると思う」と望みをつないでいた…。
そうして迎えた、最終日。まずコートに入ったのは錦織とドディク。「朝から緊張していた」と言う錦織は序盤動きが悪く、3-5とリードを奪われてしまう。しかし、「そこからはストロークのミスがなくなり、動きもよくなった」と錦織が4ゲームを連取し、第1セットを7-5で奪うと、タイブレークに入った第2セットも取り、完全にリズムをつかんだ第3セットは6-3で錦織が勝利。やはりラリーで組み立てる試合展開になると、常に深いボールを打ち続けられるだけでなく、相手の意表を突いた展開もできる錦織のほうが格が上。「自分らしいプレーをすることを心がけた」という通りの内容で、ポイントを2-2に戻した。
そして勝負のかかった添田×カルロビッチのシングルス。試合前、錦織は添田に「なかなかブレークできなくても気持ちをダウンさせず、タイブレークに持ち込めばチャンスはある」と対カルロビッチのアドバイスを送っていたのだが、添田はその言葉通り、第1セットをタイブレークまで持ち込む。しかし、タイブレーク4-7で第1セットをカルロビッチに奪われると、「第1セットを取られたことで、闘志が空回りしてしまった」と第2セットは1-6と一方的に取られ、第3セットでも「リターンの位置を前にしてみたが、難しかった」と4-6で敗退。
結局、竹内監督が言った「終始落ち着いてプレーしたカルロビッチにやられた」という言葉が、今回の対クロアチア戦を象徴するかたちとなってしまった。実力で初のワールドグループに勝ち進んだ日本男子チーム。今回はクロアチアの 壁の前に敗れはしたものの、確実に日本男子のレベルは上がっている。 大会翌日発表のランキングでは、日本のエースとなった最年少22歳の錦織圭が18位、歴史的勝利を挙げた添田豪が81位、全豪で大物食いを発揮した伊藤竜馬が106位、そして今年に入り好調を維持している杉田祐一が173位となった。9月に行われるワールドグループ入れ替え戦に挑む日本チー ムはきっともっとたくましい姿で登場してくれるに違いない。(対戦相手は4月11日に決定する) 日本の男子テニス界の夜明けは近い。