2017年8月、錦織 圭はATPシンシナティ大会での練習中に、右手首のケガを再発し、シーズンの残る大会をすべて欠場した。復帰は約5ヵ月後、2018年1月下旬に開催されたアメリカ・ニューポートビーチでのチャレンジャー大会となった。
その復帰戦は、ノビコフにフルセット負け。「やっぱりまだ〝自信がない〟分、自分から打っていけなかった」と振り返っている。故障からの復帰の過程、それは『自信』を取り戻すための過程と言える。
復帰に当たり、錦織はいくつかのことをマイナーチェンジしている。
プレー面での顕著な違いはサーブだ。昨季までは、トスアップ後に右足を引き寄せるフットアップ型だったが、復帰後はスタンスを変えずに打つ「フットバック型」に変更。それはフェデラーも取り入れているもので、一般的に、スピードよりも精度を求めるフォームである。実際、楽天ジャパンオープンで編集部が聞いた質問に、「サーブが武器になりつつある」「時間かかったけど、今はしっくりきて、いい感じになっていると思います」と答えている。
そして、ギア面では、BURN 95CVに張るクロスのストリングを、ルキシロン4Gから「ルキシロンELEMENT 125」(メインはWilson NATURAL 16のまま)に変更している。ELEMENTは、ポリ・ストリングの中で随一の柔らかさを発揮するストリング。これは、錦織が試打テストの末、“これがベストの選択”と決めたものだったという。
復帰2戦目、ダラスでのチャレンジャー。ここできっちり優勝すると、1週を空けて行われたニューヨーク・オープン(ATP250)に出場。久しぶりのATPワールドツアー大会でベスト4と結果を残す。その後、風邪による体調不良で一時コンディションを落とすが、4月のモンテカルロ・マスターズではチリッチ、A.ズベレフと強敵を倒して決勝に進出してみせた(決勝はナダルに敗戦)。後に語っているが、この大会が一つの分岐点となったようだ。
その後、全仏オープンは、4回戦でクレー巧者ティエムに、ウィンブルドン、は難敵ジョコビッチに惜敗。あと1歩、2歩という惜しい大会が多かったが、迎えたUSオープンで、輝きを見せる。1回戦から高い集中をキープし、早いテンポで攻めるテニスを展開。迎えた準々決勝では4年前、決勝の舞台で敗れたチリッチを激戦の末、2-6、6-4、7-6(5)、4-6、6-4で破っている。高い軌道を描き、ベースライン深くに突き刺さるフォアハンド、相手の逆を突きエースを奪えるバックハンド、そして速いテンポのラリー、それは見事なものだった。ジョコビッチに敗れ、ベスト4に終わってしまったものの、プレー内容は、復活と呼べるものだったと言える。
そして10月、2年ぶりに楽天ジャパンオープンに帰ってきた。会場で錦織を迎えたのは、生のプレーを待ちわびた大観衆だ。
「日本で当たらなくても」と苦笑いで語った杉田との1回戦は、難しい入りとなったが、2セット目はリズムをつかんでストレート勝ち。続く2回戦は、何かと縁があるペールとの対戦。「バックが強烈」と警戒していたが、錦織のプレーは鮮烈だった。サーブゲーム、リターンゲーム共に、先に先にと展開を作っていく錦織はペールを圧倒。第1セットを奪うと、第2セットではブレークされる局面もあったが、「辛抱強く戦うことが重要だった」と振り返るとおり、粘りのテニスでペールを退けた。
準々決勝、勢いに乗るNEXT GEN、チチパスを6-3, 6-3で退けると、2勝7敗と分が悪いガスケとの準決勝へ。第1セット、フットワークがいいガスケのストロークが深く決まっていき、ブレークはできず。しかし、そのガスケが「(錦織は)サーブがとてもよかったし、ほかのプレーもよかった。特にタイブレークは驚くほどのレベルだった」と語るほど、錦織のキレが素晴らしかった。タイブレークを7-2として第1セットを奪うと第2セットは、勢いのままに6-1。昇り調子のガスケに反撃の隙を与えなかった。完璧な試合と言ってもいいゲームだったと言える。決勝は、メドベデフに屈した形となったが、ケガ明けのシーズン、日本でこれだけのプレーを見せたことは、ファンにとっても心強かったはずだ。
「一番は、感覚の部分(が中々戻らなかった)。狭いところをなかなか狙えなかったり、大きなミスをしたり、思い切ってラケットを振れなかったり、イップスまではいかないけど、なかなか感覚が・・・2、3ヶ月は特に出なかった。テニス人生終わったかな、ということもあった」、大会中、シーズンのこれまでを振り返って語っている。そこから錦織は自信を取り戻した。 「(感覚が)徐々に出てきた。モンテカルロまで良くなかった。自信を持ってプレーできたのは最近。今年は完ぺきなプレーを求めず、やっている」。その言葉からも、自信を取り戻したことはわかるだろう。
シーズン最終戦を目指し、最後の最後まで戦う錦織だが、未来に対しての準備も同時に進めている。
表ざたにはなっていないが、錦織とウイルソンは、実はモンテカルロ・マスターズあたりから頻繁にコンタクトを取り合っていたのだという。なぜか? もうお気づきだろう。それは、彼の新たな武器、その最終調整のためのコンタクトだったのだ。
2018年11月、錦織 圭の新たな武器がベールを脱ぐ――。錦織が欲した新たなニーズとは何だったのか? そして、どんなテクノロジーが搭載されているのか? 11月5日発売のテニスクラシックで、その全貌が明らかになる。