楽天ジャパンオープンレビュー 超攻撃型のプレーヤーたちが輝いた有明コロシアム

2012.10 :: 楽天ジャパンオープンレビュー(その2)

楽天ジャパンオープンレビュー 超攻撃型のプレーヤーたちが輝いた有明コロシアム

激しい打球音と矢のような導線が持ち味の攻撃型選手達

伊藤 竜馬 コロシアムの語源は古代ローマの円形闘技場。元々の意味から言えば、戦いの場であり、有明コロシアムはテニスだけではなく、日本の『格闘技の殿堂」という顔も持っている。 今年の楽天オープンには、そういったイメージに相応しい能力を持った選手たちが数多く集まったといえるだろう。
テニス選手にも色々なタイプがいる。大別すれば攻撃タイプと守備タイプということになるが、伊藤竜馬、ミロシュ・ラオニッチ、ドミトリー・ツルスノフはさしずめ超攻撃型に分類される選手たちといっていい。彼らのテニスは生で見ると、その迫力が他の選手たちとはっきり一線を画しているのが誰にでもわかる。とにかく打球音が凄まじい。 “ポーン”や“パコーン”と表現されることの多いのがテニスの打球音だが、彼らのそれは“バキッ”とか“ベキッ”としか表現できない激しいもので、ほとんどの一般プレーヤーでは一生出せない独特の音を奏でる。そして彼らが打つボールは、サービスではもちろん、ストロークでも強烈な線のイメージを目に焼き付ける。 ボールが飛んで行くというよりも、矢のように突き刺さって行くイメージだ。テクニシャンたちが見せる導線とはまた違った意味での美しさがそこにはある。


目の前に集中し勝利を勝ち取った伊藤竜馬


伊藤 竜馬 さて、まずは伊藤竜馬の活躍に触れなければならないだろう。
1回戦でランキング12位のニコラス・アルマグロと対戦した伊藤は、ツアー屈指の強打者を相手に真っ向勝負を挑み、打ち勝った。 伊藤は先のデ杯イスラエル戦の初日のシングルスに、調子を崩していた錦織の代役として起用されたが、大事な一戦での緊張と、相手のアミル・ワインストラウブの破壊力あふれるプレーの前に敗退。日本の敗因の一つとなってしまったこともあり「しばらくはひどく落ち込んでいた」といい、この楽天ジャパンオープン1回戦の前の段階ですら、「ダメかもしれないよ」と関係者同士では話さなければならないほどの状態だったという。

伊藤 竜馬 だがコートに立った伊藤は、この夏の辛い経験を吹っ切ることで、自分らしく戦う決心をしたという。「『勝たないといけない』と自分で自分を追い込んで、もっと早く上に行きたい気持ちが空回りしていた」という伊藤は、「今日は目の前の1ポイントのことだけを考えた。先のことを考えず、今のことにだけ集中した」という。フェデラーやナダルですら、「まずは1回戦のことだけを考える。そして、試合では目の前の1ポイントに集中する」と言いながら、自分を律していなければ崩れるのが今の男子テニス。伊藤もやっとそこに気づいたということなのだろう。


パワーヒッターの面白さを証明したツルスノフとラオニッチ

ツルスノフ その伊藤を2回戦で沈めたのがツルスノフだ。 手首や腰などに故障の多い選手生活で、その能力の割に実績的には目立たないが、誰もが認めるテニス界屈指の強打者。この有明との相性もいい。
伊藤との差があったのだとすれば、それは攻撃に対しての覚悟の差ではなかろうか。 ツルスノフにとっての攻撃テニスは彼そのもの。アップダウンが多くエースかミスかの連続が、彼のテニス人生だったと言っていい。しかも、ツルスノフは故障からの復帰途中ということもあり、いつも以上に思い切りの良さがあった。今の伊藤はまだ、その境地にまでは達していない。気合で飲まれ、浮いたボールを全て叩かれた伊藤は、持ち前の攻撃力を封じられてしまった。 そして、ラオニッチ。錦織より上位の選手としては唯一の歳下で(錦織は1989年生まれ、ラオニッチは1990年生まれ)、長身から放つ時速220キロオーバーのサービスと、回り込んで打つフォアの逆クロスが生命線。今大会では準決勝ではアンディ・マレーを下す金星を挙げた。「コートに立ったら相手が誰かなんて考えない。僕は僕のプレーをするだけ」と話す彼は、人の良さと伸び盛りの選手が見せる強気さが同居した、21歳の「カナダの侍」だ。

決勝で錦織に敗れたものの、1回戦で試合巧者のステパネックを下し(2回戦のトロイツキは相手の途中棄権)、準々決勝のティプサレビッチ、準決勝のマレーと強敵をそのサービスとフォアでねじ伏せての決勝進出は迫力満点で、『当たり出したら手が付けられない』という言葉をそのまま地で行く快進撃を見せた。
ラオニッチ ラオニッチと有明の関係は深い。200位でまだ無名の19歳だった2年前の大会に予選から出場。予選を勝ち上がると、本戦では2回戦で対戦したナダルを怖いもの知らずの強打の連打で追い込んで、その存在を世界に轟かせ、その後一気にトップへと駆け上がった。2年前の有明での活躍が彼に自信を与え、今の彼の基礎を作った選手と言っていい。
それでも、今はまだまだ荒削りな部分が目立つ。ストロークは公平に見て、フォア以外は弱点と言っていいほどだが、乗っている時のそれはデルポトロのような破壊力を見せる。 準決勝で敗れたマレーは、試合の序盤で彼にサービスブレークを許してしまったことで調子に乗せ、いつもなら入らないボールまで打てば入るという状態してしまい、そのまま押し切られてた。 サービスは天性の部分が大きく、最初に持っている能力から大きくは進歩させられないものだが、ストロークは変わる。ラオニッチの今のコーチであるガロ・ブランコはかつて、ピート・サンプラスに「ガロほど才能のある選手はあまりいない」と言わせたストロークの名手。
いずれラオニッチのテニスが完成してきたら、文字通り天下を取れるポテンシャルは持っている。
錦織の優勝で幕を閉じたものの、大会全体を通じてみればパワーヒッターの競演となったのが今年の有明だった。一昔前は「男子のテニスはパワーで決まってしまってつまらない」と言われたこともあったが、今のパワーヒッターたちの見せるテニスは面白い。それを証明したともいえる大会だった。