デ杯アジア・オセアニアゾーンIの2回戦、韓国戦が4月5日からの週末に有明コロシアムで開催された。日本チームは添田 豪、伊藤竜馬、守屋広紀、内山靖崇という布陣で、錦織 圭と杉田祐一は外れていた。若手主体の韓国が相手だけに、錦織を招集するよりも日本の若手に経験を積ませたいという側面もあったのだろう。
だが、相手の韓国は1回戦でインドを破っての2回戦。今年のインドは協会と選手側の内紛などでまともなチーム編成ができない状態での韓国戦だったが、それでも簡単に勝てる相手ではない。若手主体だけに勢いに乗せてしまうと計算外のことが起きやすいという見方もできた。実際、韓国チームのメンバーたちはそれぞれ鍛えられた、しっかりとしたテニスを見せた。その分だけ意外性には乏しかったが、実質上のエース格だった林 勇圭は、2日目のダブルスと最終日の添田戦で大活躍し、添田からは1勝をもぎとって日本をピンチに陥れた。
前回のインドネシア戦では添田がエースとしての貫禄と存在感を見せつけ、相手に心理的なプレッシャーをかけたが、今回、その役割を果たして見せたのは伊藤だった。その伊藤は、初日の第1試合で鄭 石英を相手に6-1、6-4、6-4のストレートで勝利をおさめる。スコアほど一方的な展開とまでは言えなかったが、それでも相手に勝機を全くと言っていいレベルで与えず、日本サイドから見れば終始安心して見ていられる試合ぶりを演じた。「この1月から体力的に弱いところを強くするトレーニングを続けて来ました。今日はそれを試す機会でした」と1日目終了後に語った伊藤。「最初から最後までアップダウンをなくして集中して戦い抜くことが今の課題ですが、今日はそれが出せたと思います」という言葉からは頼もしさを感じる。
プロ転向間もなくの頃の伊藤と比べると、今では別人と言えるほど身体が大きくなっているのだが、彼は見る度にその印象がいい意味で変わっていく。デビュー当初の伊藤は、世界では最も数が多いハードコートで強い攻撃型のテニスが主体だった。今も基本的な部分では同じだが、世界基準で見れば身体的に恵まれているとは言えない彼が、その種のプレーを主体にしていることには不安の方が大きかった。器用さよりも無骨さで押していく伊藤のテニスはハマれば強いのだが、応用性には乏しく、同じタイプでよりパワフルな相手と当たった時の打開策があるとは思えなかったからだ。
だが、伊藤は一つ一つ自分の課題を乗り越え、着実に自分のものとする成長力を持っていた。テニスに関してはどん欲で、プラスになるものに対しては素直に取り入れるという性格的な部分も、彼の強さなのだろう。テニスの成熟度で言えば、添田のほうがまだかなり上だが、伊藤は未完成な状態でほぼ五分のレベルまでその強さを磨き上げて来ている。
初日で2勝した日本は、2日目のダブルスで敗れて2勝1敗とされ、さらに最終日のエース対決である添田対林戦で、添田が敗れ2勝2敗と追いつかれた。このデ杯での添田は、エースとしての重圧が重かったのか、あるいは体調が元々優れなかったのか、初日から苦しい戦いぶりを見せていた。
そして、伊藤にチームの勝敗がかかって迎えた最終試合。「今までチームに貢献できていないという意識が強かったので、初めてそれを感じながらコートに立ちました」と伊藤は試合後に話しているのだが、大きなプレッシャーがかかるはずの場面で彼は堂々とした戦いぶりを披露し、その存在感を見せつけた。相手の趙ミンヒョクは、初日に添田とフルセットを戦っていたという不利もあったが、伊藤はまったく付け入る隙を与えなかった。6-3、6-3と伊藤が取って迎えた第3セットは6-0と完封。試合の中で徐々に調子を上げ続けた伊藤のショットは、最後はライン上からライン上という正確さを見せ、趙を力と技で文字通りねじ伏せた。
韓国チームも日本の選手たちに関しては多くの情報収集をしており、その対策も持った状態で対戦に臨んだと話していたのだが、初日に伊藤と戦った鄭は「前に戦った時よりもボールが重くなっていた」と驚きの表情で語っていて、韓国の尹龍一監督は「添田と伊藤はツアーでの経験を積んでいて、フィジカル、メンタルともに予想以上に成長していた。接戦はできたが、まだまだ学ぶことは多いと思った」と試合後に話していた。自身もツアー選手としてデ杯でも活躍した経歴を持つのが尹監督。彼は、90年代末から00年代にかけて活躍し最高で世界36位を記録した李亨澤とともに、日本の前に大きく立ちはだかった選手の一人だった。「自分が戦っていた頃の昔は松岡修造一人のチームだった。今は錦織がいなくても、添田と伊藤がいて、とても強くなったという印象がある」。
日本チームの勝利を決めた伊藤は「3-1で終わるだろうと思っていました」と対戦後に話して会見場の笑いを誘った。「2-0から2-2になって、チームにとっては悪い状況。でも、チームで戦うときには自分の後ろにチームメイトたちや観客席で応援してくれる人たちがいる。その中で安心して、そして自分を信じて戦えました。僕にとっては2-2で戦えるのはチームに貢献できるチャンスだと思っていたし、無心で戦えたのが大きいと思います」と続けた。
さて、今回の対戦ではダブルスの敗因となってしまったのが内山だ。勝敗のかかった試合での戦いは、先のインドネシア戦に続いて2度目。今回も先にシングルスが2勝して回って来たダブルスだったが、この韓国戦での内山は完全に空回りしていたように見えた。パートナーは、予定されていた添田から急遽スイッチされて出番となった守屋。守屋にとってのデ杯は今回が初出場だったが、「僕個人としては納得できるプレーができた」と試合後に話したほどの落ち着きぶりで、随所に彼らしいプレーを見せたのだが、内山は自分のサービスゲームを1度しかキープできないという彼らしくないプレーに終始してしまった。
織り込み済みだったとはいえ、パートナーがベテランの添田から、初出場の守屋に変わったこと、怖いもの知らずで戦えた1試合目と違い、2試合目だったからこそ襲った怖さなど今回の内山には同情すべき部分も多いし、内山のサービスがキープできなかったのは、前衛を務めた守屋の責任も軽くはなく、また、直前まで交代を迷っていたという植田実監督の判断についても議論の余地はある。
だが、もしこれで日本チームが負けていれば、内山は心にトラウマ物の痛手を負ったかもしれないが、伊藤が全てを帳消しにしてくれた。それが今の日本チームの強さだ。前回のインドネシア戦ではややもたついていた伊藤を添田が見事な勝利でチームを救い、今回は伊藤が頼りがいのあるところを見せた。内山もこれらのバックアップに応えて成長しなければならない。そして、彼ならきっとできるだろう。
9月の入れ替え戦はホームでコロンビアが相手と決まった。ワールドグルーブ復帰に向け、日本チームの成長は止まらない。
伊藤竜馬選手・使用ラケット
内山靖崇選手・使用ラケット