錦織にとっては、今年初めてのクレー大会となったバルセロナ。大会前のインタビューでは「最初のクレーだから、簡単ではないと思う」(錦織)と答えつつも、「昨年、とてもいい形で優勝できた大会なので、すごく気合いが入っている。ここはクレーの中でも一番に好きな大会だし、大会に出る時は、いつも優勝を狙っている。だから、今年も是非トロフィーを掲げたい」と意気込みは十分。また、このバルセロナ、錦織が第1シードで、第2シードはナダル(スペイン)だったが、そのナダルについては「クレーで彼に勝つことが今の目標の一つ。彼にはまだ勝っていないけれど、少しずつ迫ってきているという実感があるので、チャンスはあると思う」と闘志満々だった。
そうした錦織にしては強気の発言を裏付けるかのように、2回戦(1回戦はBYE)でガバシビリ(ロシア)にストレート勝ち(6‐3、6‐4)すると、3回戦では昨年このバルセロナ決勝を戦ったジラルド(コロンビア)を6‐2、6‐1で圧倒。「タフな試合で何度もデュースがあったけれど、大事なポイントを取れたのでいいスコアで勝つことができた」と、ラリーが長くなるクレーでの戦い方を完全にものにしての勝利だった。
そして続く準決勝では、「フラット系で打ってくるフォアに威力があった」と、バウティスタ・アグ(スペイン)に、この大会初のセットを奪われるも、「第3セットになって、さらに自分のギアを上げられたのが良かった」と6‐2、3‐6、6‐1で勝利。すると続く準決勝では、昨年の全仏オープン1回戦で負けたクリザン(スロバキア)を6‐1、6‐2と圧倒し、昨年に続き決勝進出を決めた。
そして迎えた決勝戦。勝ち上がってきたのはノーシードのアンデュハル(スペイン)。ナダルは3回戦でフォニーニ(イタリア)に敗退し、そのフォニーニは準々決勝でアンデュハルに敗れていた。さらにアンデュハルは準決勝でフェレールを破り勢いに乗っていたこともあり、決勝でも第1セット、第2セットともに最初にブレークに成功したのはアンデュハル。フォア、バックともパンチ力のあるストロークで、錦織にプレッシャーをかけたのが功を奏したかたちだ。錦織としては各セットとも追いかける展開になり苦しかったが、それでも長めのラリー戦になると展開力の豊富さで主導権を握るのは錦織。そのアドバンテージを生かしてジリジリとアンデュハルに追いつき追い越した錦織が、6‐4、6‐4で振り切って優勝。「2連覇できてほんとうにうれしい。重要な場面で積極的なプレーができたのがいい結果につながったと思う。これでまたクレーでの自信がついた」と、クレー大会の大一番、全仏オープンに向けて幸先のいいスタートを切った。
錦織がバルセロナに続いて出場したのがマドリード。昨年、決勝戦でナダルを苦しめ、グランドスラムに次ぐグレードのATP1000大会初優勝まであと一歩と迫った大会だ。しかし格式が高いだけあり、トップ選手がこぞって参加。ジョコビッチ(セルビア)はスキップしたものの、第1シードがフェデラー(スイス)、第2シードがマレー(イギリス)、第3シードがナダルで、錦織は第4シードでの登場となった。
そして迎えた2回戦(1回戦はBYE)。相手はマイアミ4回戦でも戦っていたゴフィン(ベルギー)。その時は6‐1、6‐2で圧勝していたのだが、今回は第1セットを6‐2と先取したものの、第2セットは積極的にコート内に入り込んで攻めてくるゴフィンに4‐4からの勝負どころで2ゲーム連取され、最終セットに突入。その第3セットも4‐4までもつれる白熱した展開となったが、ゴフィン・サーブの第9ゲーム、ブレークポイントを握った錦織が最後はバックの逆クロス・エースを決めてブレークに成功。この後、自分のサービスゲームをきっちりキープして、3回戦に駒を進めた。
続く3回戦では、バルセロナ準々決勝でフルセットを戦ったバウティスタ・アグと対戦。2回戦のゴフィンに続き厳しい戦いが予想されたが、今回は「フォアを使って昨日より攻撃的なプレーができたのが良かった。また、ファーストサーブの確率が良かったので、楽にキープできたのも良かった」という錦織が6‐3、6‐3で勝利。クレーでの戦い方のリズムを完全につかんだようで、次の準々決勝ではクレーではさらにタフな相手となるフェレール(スペイン)に6‐4、6‐2と圧勝。「長いラリーにならないようフォアを使ったりバックのダウン・ザ・ラインを使って、フェレールのペースに持っていかれないようにした。リターンを積極的に打っていけたので、その後のラリーで主導権を握ることができたのも良かったと思う」と錦織本人も満足の試合内容だった。
こうして準決勝に駒を進めた錦織。フェレールに勝ったことで「今日のようなラリーができればマレーに勝つチャンスもあると思う」と自信をみせていたが、ポイントどころで鋭いコースに入ってくるマレーのサーブをうまくリターンできず、また、ストローク戦でも速いタイミングで攻めてくるマレーにジリジリと押される形となり3‐6、4‐6で敗退。「今日は僕のアンフォースド・エラーが多かった。これではアンディには勝てないね。今日は彼が常に集中してプレーしていたので、僕にはほとんどチャンスがなかったよ。ここはバルセロナよりもバウンドが高く、ボールが速い。だからサーブがとても重要になってくる。そのサーブの差も出たと思う」とコメント。負けたのは残念だったが、マレーは続く決勝戦でクレー・キングのナダルを6‐3、6‐2で破って優勝。スコアだけを考えると錦織のほうが善戦したわけで、改めてクレーでの強さを見せつけた大会となった。
バルセロナ優勝、マドリードはベスト4という結果を受け、「クレーでいいプレーができるようになった」と自信を胸にローマ大会入りしてきた錦織(第5シード)。2回戦(1回戦はBYE)でベセリ、3回戦でトロイツキを退けると、準々決勝で第1シードのジョコビッチと対戦。ジョコビッチは、グランドスラムの中で唯一タイトルを獲っていない全仏オープンに備えるため前週のマドリードを欠場していて、そういう意味では、初のグランドスラム優勝を狙う錦織にとって、全仏オープンの優勝候補筆頭であるジョコビッチにどれだけ迫れるのかを試す絶好の機会となった。
試合のほうは、第1セットをジョコビッチに6‐3で先取されるも、第2セットはお互いのサービス・キープが続いた3-2アップから、ジョコビッチのサービスゲームをブレークして4‐2とリード。その後は、この1ブレークを生かした錦織が6‐3で第2セットを奪い返す。試合前「できるだけジョコビッチを脅かすようなプレーがしたい」と語っていた通りの攻撃的なストロークで、ジョコビッチにプレッシャーをかけたのがポイントとなった。
そうして迎えた最終セット。錦織にとっては第2セットの流れで試合を進めたいところだったが、このセットになってステディさを出してきたジョコビッチに対し、「攻め急いでしまった。彼のミスが少なくてプレッシャーになった」と錦織。第4ゲーム、第6ゲームと2度のブレークを許してしまい、結局1‐6で敗退。
それでも、錦織にフルセットで勝ったジョコビッチが、その後の準決勝でフェレール、決勝でフェデラーをいずれもストレートで破って優勝したことを考えると、ジョコビッチを一番追い詰めたのは錦織。錦織自身が「クレーシーズンの一番の目標は、万全の体勢で全仏オープンに臨むこと」という流れには完全に乗っている。全仏オープンは期待してもいいはずだ!