錦織 圭@全仏オープン2015

錦織 圭@全仏オープン2015

錦織 圭@全仏オープン2015

昨年はケガのため「グランドスラムでなければ出なかったかも」という状態で全仏オープンに臨み、影響で満足に戦えず1回戦でクリザンに敗退した錦織 圭。それに対し、今年は錦織本人が「万全の状態で臨むことができる」と自信を持ってのローランギャロス入り。 それでも、1回戦の相手が地元期待のマチューというのは、錦織にとって実はかなりタフだったはずだ。マチューは繰り返した故障や、昨年は妻の病気でツアーに出られなかったためランキングこそ低いが、テニス界では誰もが認める実力者の一人。さらに、「全仏オープンに出るのは今年が最後」と表明しての出場でもあっただけに、地元ファンの期待は高まっており、彼自身もやる気に満ちていた。

錦織圭だが、誰にとっても難しいと言われるグランドスラムの初戦で、しかも難敵を相手に、錦織は序盤からその持ち味を発揮して勝利。第1セットの第3ゲームでは、リターンでの駆け引きで相手にプレッシャーをかけるいつものプレーでいきなりブレークに成功し、試合の流れを握った。マチュー側からすると、『セカンドサービスになると危険だ』という意識をこのゲームで植え付けられたに違いない。第2セットでは相手にブレークを先行される場面もあったのだが、すぐに取り返して主導権を渡さず、ループを織り交ぜるなどショットでもメリハリをつけて技術もパワーもある相手を封じ込んだ(6‐3、7‐5、6‐1)。

試合後、マチューは錦織との対戦を「最初は相手のリズムを変えようとした。彼のフォアに早いタイミングで攻めたかったができなかった。というのは、彼はとても早いタイミングでボールを捕らえてくるから、ボールのコースを変えられなかったんだ。それに彼はとてもスマートに、そしてとても素早くコートを動く。思っていた以上にすごい相手だった。この数週間の彼をテレビで見ていて、彼がどれほど難しい相手か知っていたはずだったんだけどね」と振り返り、「この数年での彼の成長速度を見ていれば、彼はいつか確実にローランギャロスで勝つと思う」と錦織に賛辞を送っている。

また、2回戦のベルッチ戦も錦織にとってはタフなテストだった。元々クレーでは強さを知られた選手で、来年、地元で開催されるリオデジャネイロ五輪に向けて再び戦績も上り調子。今季のクレーでは好調で、ローマではジョコビッチとフルセットを戦っていた。

試合が始まると、序盤は錦織もベルッチもやや手探りな雰囲気だったが、徐々に錦織が得意とするリターンでの駆け引きが突破口となっていった。相手のファーストサーブに対しては返球確率を重視し、セカンドサーブに対してはコート中に入って叩き相手から時間を削り取る。そうかと思うと、セカンドサーブに対してもポジションを下げたままリターンすることもあり、「後ろでやったほうがポイント取れるかなと思って」(錦織)と作戦を変えながら戦ったのだと明かしている。ベルッチはこのプレッシャーに耐え切れず、試合の中盤以降はサービスキープもままならなくなり、3セットで10本ものダブルフォールトを強いられて敗退(7‐5、6‐4、6‐4)。「最初は自分のサービスゲームをキープするのに必死だった」と錦織は言いながら、「中盤以降はバックをダウン・ザ・ラインに切り返したり、中に入ってどんどん打っていけた。ストロークでも主導権を取っていけたのが大きかった」と話している。

錦織圭こうしてスムーズな勝ち上がりをしていると幸運も向こうからやってくるようで、3回戦は相手ベッカーの棄権で不戦勝。3日空いて迎えた4回戦のガバシュビリ戦では、ほぼ横綱相撲で押し切ってベスト8進出を決めた(6‐3、6‐4、6‐2)。そして、錦織が「まずは一つのゴールをクリアした」と言いながら、「優勝までチャンスはあると思う」と言葉にしたのは、この4回戦の後だった。「クレーでもどんどん打っていって、ウィナーを取れるのも感じている。クレーに向けてテニスを変えてきたのが勝てるようになってきたキッカケ」だと錦織は自分のテニスに自信を深めていた。

しかし、準々決勝のツォンガ戦は序盤の誤算が大きく響き、それが結果として敗戦につながってしまった。この日のパリは晴天だが強風。最大風速はおよそ15mを記録した。「最初は風にやられたのと、作戦が当てはまっていなくて焦りが出てミスが異常に多かった」と錦織は言う。詳しい戦術については口が堅い錦織だが、当てはまっていなかったという作戦は、「彼にフォアを打たせすぎた。バックを狙っていかなかった」ということのようで、序盤は「自分を見失っていた」とも話している。

だが、強風にあおられてのことなのか、第2セット2‐5の場面でスコアボード下部にあった金属板が観客席に落下。数人の負傷者が出たこともあって試合が40分ほど中断し、再開されてからは流れが一変した。「あの間にコーチと話せたことで、彼は解決策を見つけたんだと思うよ」とツォンガは話している。「あの後の彼は、とても難しい相手に変わっていた」。再開後の錦織は、ツォンガに狙われて湿っていたフォアに当たりが戻り始め、ラリーでの主導権を握って押していく。逆に勝ちが見えたことで動きに大胆さを欠き始めたツォンガは、それまでと同じようにフォア狙いを繰り返しつつ防戦したが、錦織のプレーが上回り第3&第4セットを錦織が取り返して、勝負はファイナルセットへ。

錦織圭錦織のフルセットでの勝率は高い。流れとしては錦織だったと言ってもよかった。だが、ツォンガはサービスとフォアと心中するような大胆さを試合の最後で再び見せた。失う物のない挑戦者としての立場で迎えた戦いであればこそであり、また、場内が大歓声で彼の背中を押し続けたホームの有利さもあったはずだ。「試合の残りがあとどれぐらいあったかということなんだ。長過ぎれば負けていた。シンプルなことだと思う」と試合後のツォンガは話している。序盤に築いたリードによる余裕が彼を勝たせたということで、つまり、錦織にとっては序盤の混乱が致命的になったということだった(1‐6、4‐6、6‐4、6‐3、3‐6)。

それでも、「今年もクレーでいいテニスができていて、結果も出てる。落胆はしていない」と錦織はクレーコートシーズンを振り返っている。全仏オープンでは初めてのベスト8進出は、決して悪い結果ではない。クレーで示したストロークでの支配力は、ハードコートでも十分に生きるだろう。