毎年、赤土クレーコートで行われる全仏オープン後にやってくるのが短い芝コートのシーズン。それでも、これまでは全仏オープンが終わってから2週間後にウィンブルドンが始まるという慌しいスケジュールだったが、今年は1週間長くなりスパンは3週間に。選手としては、本番であるウィンブルドンに向けて、芝コートに慣れるための準備が多少なりともしやすくなったと言える。

そんな中、錦織は全仏オープン後、1週間休みをとって6月15日からスタートしたドイツのハレ大会(ゲーリー・ウェーバー・オープン)に出場。今年初の芝コートでの試合となったが、1回戦で若手の成長株ティエム(21歳、29位)をストレート[7‐6(4)、7‐5]で退けると、2回戦ではドレッドヘアがトレードマークのサーブ＆ボレーヤー、ブラウン(114位)に7‐5、6‐1で勝利。そして続く準々決勝の相手は、203㎝の長身から打ち下ろしてくるサーブと、これまた高い打点から叩き込むように攻撃してくるフォアが武器のヤノウィッツ(51位)という芝コートで当たるにはイヤな相手だったが、6‐4、5‐7、6‐3で勝利。

ここまでの試合を錦織は「今年初の芝コートの大会だけれど、芝特有の低いバウンドにもうまく対応できていると思う。1回戦のティエムはサーブとバックがいい選手だったけれど、何とか2セットで終わらせることができて良かった。2回戦のブラウンは普通の選手と違うスタイルでプレッシャーをかけてきたけれど、僕も調子が良くていいゲームをすることができた。特に、大事なポイントでサーブがいいコースに入ったのと、ネットに詰めて相手にプレッシャーをかけられたのが良かったと思う。準々決勝のヤノウィッツ戦では、第2セットで集中力が落ちてしまったけれど、最終セットの勝負どころで集中力を高めることができたのが良かった。体力的にも疲れていないし、これまでのプレーで芝での戦いに自信が持てるようになったので、ウィンブルドンが楽しみだ。昨年はベスト16だったから、今年はそれ以上を狙っている」と振り返り、調子は良さそうだった。

そして迎えた準決勝、相手は2年前のウィンブルドンで敗れているセッピ(41位)。このセッピにリベンジしてウィンブルドンへの弾みをつけたいところだったが、「実はヤノゥィッツ戦の試合の時、左足のふくらはぎを痛めてしまっていた。このまま無理に試合を続けてウィンブルドンに響くとイヤなので、リタイアすることにした」と第1セット1‐4となったところで途中棄権。ウィンブルドンに向けて暗雲が立ち込め始めていた。

その後、約10日間の休養をへてウィンブルドンに臨んだ錦織。"筋膜炎"と診断された左足のケガは「深刻なものではなかった」(錦織)と練習を再開していたこともあり、大会前に悲観的な様子はまったくなかった。

しかし、『これはマズイのでは?』と見ているものが不安になったのが、ボレリとの1回戦の途中。昨年のウィンブルドン3回戦で対戦した時はセットカウント3‐2で辛くも退けたのだが、今年も最終セットまでもつれる大接戦となり、その最終セット第3ゲーム終了後、錦織がメデイカルタイムアウトを要求。痛みが再発した左足のふくらはぎにテーピングを受けたのだが、その後、錦織の動きは明らかに悪くなり、少し逆を突かれるとまったくボールに触れない状況に。それでも、最終セット序盤で先に相手サーブをブレークしていたことが幸いし、この試合は6‐3、6‐7(4)、6‐2、3‐6、6‐3で勝利したのだが、続くヒラルドとの2回戦は「思い切り動くと痛みがあったので、『試合はできても勝てない』と思い、やめることにしました」と棄権。

『ボレリとの1回戦が長引かなければ』という思いもあるが、そうでなくても2回戦、3回戦と試合を重ねるたびに疲労が蓄積し、結局、いずれ痛みが再発し、満足な状況でウィンブルドンを戦い切ることはできなかったであろう。そう考えると、早めの決断は、これから始まる夏のハードコートシーズン、そして迎えるUSオープンに向けて懸命な判断だったと言える。このウィンブルドン後、一時帰国した錦織は「今はまったく問題ないです。練習も再開しています」とケガから回復していることを語り、昨年準優勝したUSオープンに向けては「準優勝者として臨むと自分にプレッシャーがかかるので、そんなに考えていないです。ゼロからスタートして、臨みたいと思っています。もちろん、自信は去年よりついていますが...。あまり先を見過ぎないように、1回戦からしっかり戦っていきたいと思っています」コメントしている。まずは、ハードコート第一戦となる8月3日からのワシントン大会に注目だ!