2年連続でのATPツアー最終戦出場。昨年はベスト4に進出していただけに期待されたが、今年はジョコビッチとフェデラーが揃った「死のグループ」に入ってしまい、抜け出せなかった。錦織はベルディッチこそ下したものの、ジョコビッチとフェデラーには敗れ、1勝2敗という成績で準決勝進出を逃してシーズンを終えた。
54勝16敗で3つのタイトル。世界8位でのフィニッシュ。全米オープンの準優勝などで凱旋ムードが漂っていた昨年と比べれば、少し寂しいような気持ちを持って見ていたファンも少なくないかもしれないが、周囲からの猛烈なマークに遭い、対策を立てられている中で成績を落とさず、ハードとクレーでタイトルを取ったのは、彼が確実に実力を底上げできていたから。実は勝率でランキングを作り直すと、2015年シーズンの錦織はジョコビッチ、フェデラー、マレーに次いで4位。第1セットを落とした試合での勝敗は15勝15敗で5割なのだが、この部門での勝率を5割に乗せたのは実は錦織ただ一人だったのだ。 勝負強さという意味では、2015年シーズンの錦織は確実に強さを増していたと言っていい。
帰国後の11 月30日、錦織は六本木アークヒルズのアーク・カラヤン広場に特設したWILSON TENNIS PARKで行われたウイルソンのイベントに参加。現地では錦織 圭と彼のラケットをサポートし続けてきたウイルソンが「現役終身契約」を交わすビッグニュースが発表された。これは100年の歴史を持つウイルソンにとっても非常に特別なことで、現役では他には史上最高のプレーヤーと称されるロジャー・フェデラーのみ。そして錦織にとっても非常に大きな決断をしたことになる。今まで、そしてこれからも錦織の手にはウイルソンラケットがある。更なる飛躍は確実だろう。
そのイベントでは、ジュニア時代に自分が使用していたモデルと同じスペックで、最新のハイパフォーマンスカーボンを装備して現代テニスのパワーを兼ね備えた「BURN 95J」の発表会も行われ、錦織のトークショーも行われた。その場には日本のトップジュニアもいて、彼らとのテニスを楽しんだりしていたのだが、「あと5年もすれば、彼らと試合で戦うこともあるかもしれないですね。5年後なら僕もまだ余裕でプレーしているでしょうし」と話していたのが印象的だ。
「僕ももう若くはないですし」と楽天ジャパン・オープンのときにも話していた錦織にとっては、次世代の日本男子のことも気になるようで、自分がそのための刺激になれば、というのは彼自身のモティベーションにもなっているようだ。
またその前日の29日、有明コロシアムでは恒例のチャリティマッチに出場し、チリッチやイバニセビッチと戦い、12月2日からは場所を神戸に移して今年から日本開催が始まったITPLに参加。多くのファンを楽しませ、次世代のジュニアたちに希望の種を蒔いた。
その後は短いオフのあと、アメリカに戻ってシャラポワが企画した「あまくでも真剣勝負」で行なわれるロサンゼルスでのエキシビションマッチに参加したりしながら、2016年シーズンに向けてのトレーニング・セッションに入る予定だという。
このオフの間にも、錦織のライバルたちは対策を練り、さらに厳しい包囲網を築いて2016年シーズンに向うだろうが、錦織もまた立ち止まらず、進化を続けて行く。年齢的には心身ともに充実期に入るのがこの先の数年間だ。2016年の錦織にも大いに期待したい。