Nitto ATPファイナルズ2017 REPORT

ランキングTOP8の選手が出場できるツアー最終戦の「Nitto ATPファイナルズ」。その舞台に、フェデラー、ディミトロフ、ゴフィン、カレーニョ・ブスタと、4名ものウイルソンの契約プレーヤーが出場。どの選手もファイナルズらしい素晴らしいプレーを見せてくれた。そして、最後にトロフィーを掲げたのは、なんとプロ転向10年目にして初めてファイナルに出場を果たしたブルガリアのディミトロフだった。
グリゴール・ディミトロフ
ダウン・ザ・ラインにアプローチを放つとゴフィンが、ネットに詰める。ディミトロフは、ネットすれすれのスライスを返す。ゴフィンのドロップボレーは小さく弧を描き...ネットを捕まった。この瞬間、ディミトロフのATPファイナルズ初優勝が決まった。コートにうつぶせで横たわったディミトロフは、体を小刻みに震わせて歓喜をかみしめた。 「夢が叶ってうれしい。グレートだ。信じられない結末を迎えることができた。ただ、私のメインの目標は、グランドスラムを勝つこと。それは私の夢。(2018年)その夢を実現するための舞台に立てた」

グリゴール・ディミトロフ 自ら"信じられない結末"と語るファイナルズ。その戦いぶりは、非の付けどころがないものだった。ラウンドロビンでは、ティエム、ゴフィン、カレーニョ・ブスタに3連勝。準決勝では第1セットを先取されたが、慌てることなく、ソックを退けて決勝に進出を果たした。そして、見ごたえある内容となった決勝で7-5、4-6、6-3、ゴフィンを下した。

その決勝は、今大会の安定感を象徴する試合だったと言ってもいいだろう。第1セット第3ゲームで、ブレークされたディミトロフは、第8ゲームでブレークバックを果たして7-5と奪う。「深いエリアに打つことができていた。それが、この試合のキーポイントだった」というディミトロフは、この第1セットに手応えを感じていた。リードされても、慌てることなく自身のテニスに徹する。トップスピンの効いたフォア、片手バック、そして伸びのいいスライスも効果的に使って、安定感をキープしながらも、大胆に攻めていく。それは、スピンエフェクト・テクノロジーを採用した「PRO STAFF 97S」だからこそ、実現できる球筋と思った人も多いかもしれない。元から、そのポテンシャルは高い選手だ。そこにATPマスターズ1000(シンシナティ)優勝などで得た自信が加わったことで、テニスが進化を遂げた。

第2セット、おもしろいシーンがあった。第6ゲーム、30-40とブレークポイントを握られた場面で、ゴフィンのバックハンドのクロスボールが、シングルス・サイドラインぎりぎりに落ちると、ラインズマンがOUT! のコールをした。ここで、ポイントを得たはずのディミトロフがチャレンジをコールする。結果、ボールはイン。ブレークはされてしまったが、会場からはその行為に称賛の拍手が送られた。それは、ディミトロフという選手の人柄を表すシーンだったとも言えるだろう。結果、そのセットは奪われてしまったが、仕切り直しの第3セットを奪って優勝を勝ち取った。ラウンドロビン、セミファイナル、ファイナルを通して5勝0敗の負けなし。初出場初優勝は、1998年のA.コレチャ以来という快挙である。

彼が全幅の信頼を寄せる名伯楽、コーチのバルベルドゥは、「ゾーンに入った時は、とてつもないレベルでプレーができる。だが、そうではない時に、どうすべきかを一緒に試行錯誤してきたんだ。今回の結果は、グリゴールがその課題に答えを出したということだ」とコメントしている。

決勝の放送では、モハメド・アリの名文句が象徴的に使われていた。それは〝不可能は事実ではない。単なる先入観でしかない〟という言葉だ。2017年最初の大会、ブリスベン国際を優勝した時、誰がこの結末を予想していただろうか。ディミトロフは、偉業を実現してみせた。キャリアハイの3位で迎える2018年シーズン、その真価を見せることだろう。

デイビッド・ゴフィン
記憶に新しい楽天ジャパンオープン。マナリノを倒してATP500の初タイトルを獲得したゴフィンの今シーズン、全豪ではベスト8とまず結果を残した。続くグランドスラムの全仏では3回戦でコート後方のターフに足がひっかかって負傷。ウィンブルドンを欠場するというトラブルに見舞われたものの、自身のテニスを失うことはなかった。粘り強い守備、的確なリターン、強烈なカウンター、そして威力を増したサーブ。「BLADE 98 18×20 CV REVERSE」を使う彼のテニスがNitto ATPファイナルズでうなりを上げた。

デイビッド・ゴフィン P.サンプラスグループに入ったゴフィン、その初戦はランキング1位のナダルだった。試合は非常に拮抗した展開となった。第1セット、第2セットともにタイブレークの末、それぞれゴフィン、ナダルが奪取。試合は第3セットまでもつれた。その第4ゲーム、先にブレークを奪うと「どのポイントも楽しもうと努めた」というゴフィンが勝利を奪った。続くディミトロフ戦には、敗れたものの、決勝トーナメント進出をかけて戦ったティエムを6-4、6-1で退けてグループ2位で準決勝進出を決めた。

準決勝の相手はフェデラー。ゴフィンから通算0勝6敗と1度も勝利していない相手だ。大方の予想どおり、第1セットは2-6と圧倒されてしまった。「試合開始からナーバスになっていた」とゴフィン。しかし、第2セットから流れを変えていく。フェデラーの速いテンポにもしっかり対応して6-3でセットを奪うと、第3セットも常に押す展開に。特にセット終盤は、あのフェデラーにうまくリターンさせないほど、サーブが冴えて6-4。ついにフェデラーから勝利をもぎとった。「とにかくうれしい。言葉にできないほどの感情だ。途中からボールが走り出し、サーブも最後までよかった。今日は僕の日だったようだ」。同一大会でナダルとフェデラーを倒した7人目の選手となった。

決勝は、ATPファイナルズ初出場どうし、ディミトロフとの対戦となった。しかし、結果はセットカウント1-2で惜敗。随所にいいプレーを見せたものの、ディミトロフがそれを上回った形だ。 「私にとっては、特別な1週間だった。さまざまなことがあり、少し疲れていたことも事実だ。それでも、アメージングな1週間を送れたと思う」と振り返った。今季最終ランキングは、キャリアハイの7位。ファイナルズ優勝はできなかったが、全仏でのケガを考えると、素晴らしいカムバックを果たしたと言うべきシーズン後半戦だっただろう。

ロジャー・フェデラー
「帰ってこらえたことが、何よりうれしい。昨年は、ケガで出場できなかったから余計にね」
フェデラーがNitto ATPファイナルズに帰ってきた。過去6度のシングルス優勝は史上最多、さらにナダルはヒザの不安があり、マレーもジョコビッチも不出場という中で、本命はフェデラーという声も多い大会だった。そして、その評価に違わないラウンドロビンの戦いを見せつける。

ロジャー・フェデラー ソックとの初戦は、6-4、7-6(4)での勝利。第2セットこそ"いくつかのミスがあった"ことで拮抗した展開となったが、ストレートでの勝利に「素晴らしいスタートを切れたことがうれしい」と喜んだ。第2戦は、16歳年下となるA.ズベレフとの対戦となった。20歳にしてファイナルズ初出場を成し遂げたズベレフは、フェデラーも一度敗れたことのある相手だ。その第1セット、ズベレフはファーストサーブを76%の確率で入れるなど、フルスロットルでぶつかってきた。結果、第1セットはタイブレークにもつれたものの、8-6で何とか奪う。それでも、若武者ズベレフは果敢に攻めてきて、第2セットを取り返されたものの、第3セットはフェデラーが速いテンポのラリーを展開して試合を支配。6-1で奪って勝利した。これで14度目の決勝トーナメント進出が決定。「勝ててよかったし、ホッとした。これでマリン(チリッチ)に対してプレッシャーなく戦うことができる。それにしても、このグループはタフだ。2試合とも苦しかった」とフェデラーは語っている。そのチリッチ戦は、フルセットにはなったものの勝利。準決勝の対戦相手はこれまでの対戦成績で6戦全勝のゴフィンとあって期待は膨らんだ。

事実、世界中の人が、準決勝第1セットまでフェデラーの勝利を疑わなかったはずだ。6-2と第1セットを奪ったフェデラーだったが、第2セット以降、リズムを取り戻したゴフィンに手こずり、なんと逆転負けを喫してしまった。 「練習では、何度というほど彼にクラッシュされていた。それが試合でなかっただけ」と、その敗戦が不思議ではないということを語り、「PRO STAFF RF97 AUTOGRAPH」と共に送った素晴らしいシーズンを振り返った。 「自分にとっては、驚くべきシーズンだった。好きなインドアだっただけに、結果は少し残念だけど。だけど、シーズン全体を考えれば、非常に幸せなシーズンを送れたと感じている」

36歳となるシーズンにして、素晴らしい結果を残したフェデラー。2018年も、同じような活躍を見せてほしい。それがファンの願いである。

パブロ・カレーニョ・ブスタ
今回、オルタネート(補欠)としてNitto ATPファイナルズに参加していたカレーニョ・ブスタ。本来、途中棄権者がいないかぎり出場機会がないわけだが、ナダルの途中棄権により出場機会が回ってきた。

彼にとっての初戦は、2歳年下(24歳)のティエムとの試合となった。待っていた分、モチベーションも高まっていたのだろう。ティエムに対して、積極的にリターンを打ち、ストロークでも強気に叩いていく。それは「とてもいいプレーができた」と本人も語る通りの内容だった。フルセットにもつれた試合は、第3セット4-6で敗れてしまったものの、ティエムは「本当に本当に苦しい試合だった。パブロ・カレーニョ・ブスタ ナダルとの交代だけど、同様にとんでもなくタフだった。最後まで苦しい試合だった」とカレーニョ・ブスタを称えている。これで「疲れてしまった」というカレーニョ・ブスタは、ディミトロフには3ゲームしか奪うことができずに敗れた。

30位で始まった今シーズンだが、終わってみれば10位。USオープンでは、ベスト4と結果も出している。それは、もちろん「BURN 100 CV」との相性がよかったからに違いない。 「10位で終われたことは、本当に、本当に喜ぶべきこと。実は今年はトップ20を目標にしていたんだ。多くの部分で、今年進歩することができたと思う。昨年より攻撃的にプレーできているし、自信も持てた。昨年より、強い選手になっている。来シーズンも、もっと進歩をしたい。そのためにも休みは2週間だけにして、来シーズンに向けて準備をしたい」

カレーニョ・ブスタにとって、現在地は通過点に過ぎない。2018年シーズン、さらなるステップアップを見せてくれるはずだ。