2017年シーズン最初の大会、ブリスベン国際の決勝は、錦織 圭とグリゴール・ディミトロフという共にウイルソンのラケットで戦う選手同士の戦いだった。激しいストロークの応酬となった試合は、6-2、2-6、6-3でディミトロフが勝利し、2年ぶりツアー優勝を飾った。
その後、全豪では、ラファエル・ナダルと大会のベストゲームとも言われる激闘を演じたのはご存じのとおり。ベスト4と結果を残すと、直後に開催された母国ブルガリアでのソフィア・オープンを制するなど、ロケットスタートを切っている。
そのプレーぶりについて、2017年途中からディミトロフのコーチをしている名伯楽、ダニエル・バルベルドゥ(マレーやベルディッチの元コーチ)は〝プランは1年を通してのもの。特段、年始に焦点を当ててはいない〟と語る。
それでは、ディミトロフの何が変わったというのか?もちろん、そこに同コーチとの積み重ねがあることは間違いない。実際、錦織も「ディミトロフがすごく努力していたのを知っている」とその努力を称賛している。
もう一つ、大きいのは調整の結果たどり着いた"ラケットとのフィット"だろう。ディミトロフは2014年の「PRO STAFF 95S」から、スピンがかかる"Sラケ"を使用している。2015年末には、前作の「PRO STAFF 97S」にチェンジ。そして、昨年のUSオープン直後からは"タキシード・スタイル"の「PRO STAFF 97S」を使い始めた。前作と、ほぼ同じスペックだが、バランスポイントが33.5cmから32.5cmに変化している。加えて、ストリングにも変化が。もともと縦にナチュラル、横にポリ(4G)を張っていたのだが、今シーズンから、ナチュラルをルキシロン製のものに変更。ルキシロンのナチュラルは、ポリエステル・ストリングとのハイブリッドを想定して開発されたガット。ストリング表面の低摩擦コーティングにより、インパクト時に最大級のスナップバック(ストリングのズレ&戻りによりスピンがかかる原理)を発生させることで知られる。つまり、バランスを手前に近づけたことで、ラケットの操作性を良くし、Sラケとルキシロン製ナチュラルの掛け合わせにより、よりスピン性能を高めていたということ。それがコートの中で、さらなる展開力を生み、確実性、安定感をも高めている。
全豪準決勝のナダル戦で敗れたものの、ウィナーの数は70本とナダル(45本)を凌駕している。コート・カバリングの広さで知られるナダルから、これだけのエースを奪えるのは、ツアーでも数少ない。ひょっとすると、ディミトロフがよく例えられる"あの選手"くらいかもしれない。
ロケットスタートを切った2017年は、ディミトロフにとって"覚醒の年"となりそうだ。相棒「PRO STAFF 97S」と共に、紡いでいくドラマを見逃してはいけない。
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