今年1月のオーストラリアンオープンで優勝したV・アザレンカ。昨年までの彼女は、フォアの弱さとサービスの不安定さが明確な弱点だった。彼女があるレベル以上の相手に敗退するのは、相手にそこを突かれた時に対応策を見つけ出せないまま、ずるずると流れを見失うことが多かったからだ。しかし、今年7月にやっと23歳を迎える若い彼女にとって、『弱点が明確であれば、後は克服するだけだった』ということなのだろう。先の全豪オープンではアザレンカのフォアハンドは広角に、しかも強烈な軌道を描いていた。そしてサービスも安定し、強いボールを相手コートに突き刺し、リターンが武器であるはずのシャラポワでさえ崩し切れないキレの良さを見せていた。
わずか2ヵ月とはいえ、このオフの間に一回り体を大きくしたことでアザレンカのスイングからはブレが消えていた。体の利き手側で打つ分だけ、フォアとサービスでは軸がブレやすくなるものなのだが、これらを武器とする選手たちは皆、上体がきっちり立った状態でくるりとラケットを回し強烈なインパクトを作る。スイングが安定しているから、打点のタイミングを少し操作するだけでコントロールが決まり、ボールへの当て方を少し変えるだけでスピン回転量もコントロールできる。何より相手の強打に対して打ち負けず、逆に打ち返せるようになる。ひとつの改善点がまるで掛け算のように戦力として成立していく感覚を、この全豪オープンでのアザレンカは実感したのではなかろうか。
そして彼女の優勝を支えたもう一つの要因には、今年から手にした『JUICE 100』が挙げられるだろう。優勝記者会見で「JUICEは私に絶対的なパワーをもたらしてくれたわ」と語ったそのラケットは、グランドスラムタイトルを獲るためにとリクエストしたものだった。前述したフォアの弱さを解消するために、アザレンカはウイルソンに「相手の時間を消しさるパワーとスピード」をリクエストした。早い展開と切り返しを武器とする彼女らしい表現だ。このJUICEはデュアル・テイパー・ビームを採用したこと、バサルト・ファイバーを増量したことで、打球時にラケットフェイスが「ばたつかない、歪まない」のが最大の特徴だ。それにより、プレーヤーのパワーをほとんどロスすることなくボールに伝えることが可能になり、驚くほどのパワーとスピードを発揮できるのだ。そしてアザレンカとJUICEのマッチングはまさに最高の形(優勝)となって実現された。
一方、昨年のウィンブルドンで一足早くグランドスラムタイトルを手にしていたのがP・クビトワ。生まれ年は1年違うが、クビトワは早生まれなので日本風に言えば同級生年代となる。クビトワの武器は182cmの長身と、左利きの特性を生かしたサービス。そして、チャンスと見るや瞬時にポジションを上げて叩いていくフラットのフォア。アザレンカとはいわば対称的な長所を備えている選手だ。
彼女の台頭は、左利きから繰り出される強いサービス力と、チェコのクレー育ちらしく基礎的な技術が高く、これと言った穴のないテニスができていたことが大きい。しかし何よりも彼女が『その気になった』ことが最大の理由だ。パワーもある、技術もある。本気になって打てばもの凄いボールを打つ。しかしクビトワは、どこかのんびりとした気質から抜けれない選手だった。だが、勝利の経験を重ねることで、自分のテニスが並のレベルではないという自覚が芽生え、野心が育ってきた。昨年のウィンブルドン優勝以降、「人生が一変した」と語った夏のシーズンは様々な戸惑いからかやや低迷したが、秋には完全に別人となっていた。シーズン最後のフェド杯の決勝には、気合でクズネツォワをねじ伏せる彼女の姿があった。しかも、ロシアのホームでだ。以前の彼女なら考えられないことだった。
そしてクビトワも今年ラケットを変えた。No.1になるために彼女がウイルソンにリクエストしたのが、「相手をベースラインに釘付けにするパワー」。ここで紹介したいのが、通常100の力で飛び出したボールはワンバウンド後に50-30になってしまうというデータだ。またフラットとスピンでは、フラットの方が減速率が高いというデータもある。つまり、スピン回転が掛かれば掛かるほど減速しないボールになるのだ。
そうしたリクエストを叶えるために開発された『STeam 100』は、しなりをスピン性能に変えることができるのが特徴のラケットだ。それにより、振り抜けば振り抜くほど、ベースラインで急激に降下し、バウンド後に加速する様に跳ね上がるボールを可能にする。残念ながらオーストラリアンオープンでは準決勝で敗れたが、この新しい武器を手にしたクビトワの活躍は日の目をみるより明らかだ。
世界No.1とNo.2の二人。いずれ近いうちに、この二人がグランドスラムの決勝を戦う日が来るだろう。 この2人の過去の対戦成績は、4勝2敗でクビトワがリードしている。しかし、お互いに新しい武器を手に入れた。そしてNo.1とNo.2となり、お互いの立場も変わった。そんな二人がガチンコでぶつかるとこの上ない激しい戦いが繰り広げられるだろう。
想像になってしまうが、試合序盤は早い展開を得意とするアザレンカがJUICEのパワーとスピードでゲームを支配するだろう。クビトワの速いサーブもダウンザラインにリターンエース。ラリー戦になっても、コートをワイドに切り裂くショットでクビトワを走らせ、ネットに詰めてのウィナーを量産するだろう。しかい中盤に入ると、クビトワがぺースをコントロールしてロングラリー戦になる。そこでクビトワはSTeamによる伸びのあるスピンボールで、アザレンカをベースライン後方に釘付けにする。そしてアングルにスピンボールを打ち、ゲームを支配するだろう。この二人が戦えばファイナルセットにもつれ込むのは必然。その先の勝敗はまったく想像ができない。その時のコンディションや、勝ちあがり方も影響するだろうが、「勝ちたい」と思った彼女たちの戦いは終わりを迎えれるかさえ想像が出来ない。どちらにしても、今年の女王争いは熱く、そして面白くなりそうだ。
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