フェデラーが黒塗り(コスメなし)のラケットをツアーで使い始めたのは、昨年の夏前。ウィンブルドン後のハンブルク大会でのことで(準決勝でデルボニスに敗退)、この時はフェイス面の両サイドにPWSがなかったため『BLADEをトライしているのでは?』という憶測が流れた(後にウイルソンが、「あの時はBLADE系のモデルを使っていた」と認めている)。そして、続くガスタード大会でも黒塗りラケットを使っていたのだが、こちらは2回戦でブランズに敗退。フェデラーが振り抜いたショットが大きくアウトする場面が多く、『うまく自分にフィットしない』と判断したのだろう。8月のシンシナティ大会以降は、USオープンを経て最終戦まで、それまで愛用していたPRO STAFF 90に戻してシーズンを終えている。
そして、年が明けた2014年。ブリスベン大会でフェデラーが手にしていたのは、再び黒塗りのラケット(以降、全豪オープンを経て現在も使用している)。しかし以前のものとは少し仕様が違い、今度のものはフェイス面の両サイドにPWSの膨らみが確認できた。PRO STAFF系のモデルだということは判別できるが、フェイス面は明らかに以前の90平方インチより大きく、ラケットの詳細については語らないフェデラーも、記者からのフェイス面に関する質問に対しては「確かにフェイス面は大きくなったよ」と答えていた。
この黒塗りのラケット。実は約3年前からウイルソンが開発を始めていた。フェデラーに「パワーがありフィーリングがよく、スタビリティ(安定性)の高いものがほしい」というリクエストを受けてのものだが、3年前(2011年)というと、フェデラーが30歳を迎えた年。また、フェデラーは03年にウィンブルドンでグランドスラム初優勝を遂げてから、10年までは毎年最低でも1つはグランドスラム・タイトルを獲得していたが、この11年はグランドスラムに関してはノータイトル(最高は全仏オープンの準優勝)。ジョコビッチが全豪オープン、ウィンブルドン、USオープンの3冠を達成した年でもあり、そうした諸々のことを考えると、年齢によるパワーの衰えを補ってくれるラケットを求めていたのだろう。
それに対し、ウイルソンはこれまで10種類以上の試作品をフェデラーに提示してきたという。その中からフェデラーが1本に絞ったのが昨年のシーズンオフで、そのラケットに慣れるため、今年は年頭から黒塗りラケットを使用してきたのだ。
そして、ついにラケットの詳細が公開された。気になるスペックで現在のところ分かっているのは、
という情報だ。フェイス面が大きくなり、フレームが厚くなったのは『パワーを出すため』と容易に想像でき、また、過去にない新形状(従来のボックス形状と、Six.Oneのようなラウンド形状のちょうど中間にあたるような滑らかな丸みを帯びた形状)にしたのも、パワーのためと推測できる。そして従来通り、ケブラーとグラファイトを組み合わせた素材を使っているのは、『フィーリングの良さ』を求めたためだろう。
このNEWラケットがフェデラーのテニスに寄与していることは、今回のウィンブルドンで準優勝したことでも明らかで、4回戦では昨年のUSオープンで敗れたロブレドにリベンジ。準々決勝では全豪オープン優勝者のワウリンカ、準決勝ではビッグサーブを武器とする勢いのあるラオニッチに勝利。リターンに力強さが出ていたのも良かったが、特に印象的だったのはサーブがかつてのような鋭さに戻っていたこと。決勝までに落としたサービスゲームがたったの一度だけという記録も、それを裏付けている。
この黒塗りラケットが、新たなコスメを与えられて、初めて登場するグランドスラムがUSオープン。08年の優勝以来、このUSオープン・タイトルから遠ざかっているフェデラーだが、心機一転で迎える今年は6年振りの栄冠に輝くかもしれない。
“I do believe I have easier power with the racket on the serve and it might help me on the return,”
“I still need to put many more matches and hours on it, but so far so good. It’s a great start to the season with the racket, with my body. Everything is going well and it was smooth for me.”
Roger Federer
「このラケットを使うことで、特にサーブでパワーを出しやすくなりました。また、パワーがあるので、リターンでもずいぶん助けられています」 「このラケットに慣れるために、もっと実戦で使用する必要がありますし、時間も必要です。でも、今のところとてもいい感じです。ラケットのほうも体のほうも、とても良い感じでシーズンをスタートできました。何の違和感もなく、すべてがいい方向に向かっています」
ロジャー・フェデラー