昨年の全豪オープン、ストリングパターンが18×17とオリジナル(本来は16×15)のPRO STAFF 95Sを手にしたディミトロフは3回戦でラオニッチを破るなどし、グランドスラムで初となるベスト8入り(ナダルに敗退)。するとその後は、3月のATP500アカプルコ大会、4月のATP250ブカレスト大会、6月のATP250ロンドン大会と3つのタイトルを獲得。そして、続いて行われたウィンブルドンでは全豪オープンを上回るベスト4をマーク。7月7日付けランキングで9位になり初めてトップ10入りすると、8月4日には8位をマーク。これまで『ポテンシャルの高さは十分で将来のNo.1候補。しかし、まだ甘さも目立つ』という評価だったが、『これで本格的にNo.1まで登っていく選手になった』という評価に変わっていった。
しかしその後、USオープン4回戦でモンフィスに負けると、9月のATP500北京大会・準々決勝ではジョコビッチ、10月のATP500バーゼル大会・準々決勝ではフェデラー、10月のATPマスターズ1000パリ大会・3回戦ではマレーに当たるなどドロー的な不運もあり、14年後半はイマイチ大きくジャンプすることができなかった。
さらにディミトロフ自身も『バックハンド・スライスの精度が上がらない』とラケットで悩み、フェデラーに相談するなどしていたようだが、ハッキリと決めきれないまま15年の全豪オープンを迎えてしまう。そしてフェデラーと同じPRO STAFF 97をSラケにした黒塗りラケットで戦うことになるのだが、4回戦でマレーに敗退。これは後に分かることなのだが、どうもPRO STAFF 97のフレーム厚21.5mmというのがディミトロフにとっては厚すぎるようで、それが微妙にディミトロフがイメージするショット軌道と飛び&コントロールでズレが生じていたのだ。
その後、悩んだディミトロフは、一時他社のラケットを使用したこともあったが、「やっぱりウイルソンでないとダメ」と再びウイルソンに戻ってくる。そして、腰をすえて熟成させていった末に完成したのがPRO STAFF 97Sだ。ストリングパターンは18×17と、これまでのオリジナルPRO STAFF 95Sと同じだが、違いはフェイス面積が2平方インチ広くなり、さらにこれまでは『ボックス形状』だったフレームが、コントロール性のいい『ボックス形状』とパワーが出る『ラウンド形状』を組み合わせた≪50/50≫のフレームに変わったこと。ここまで書くと『フェデラーのPRO STAFF RF 97のSラケ?』と思いがちだが、フェデラーのRF 97がフレーム厚21.5cmでバランスが30.5cmなのに対し、97Sはフレーム厚19.5mmでバランスが33.5cm(95Sはフレーム厚18.0mm、バランス31.0cm)。フェデラーのラケットより2mm薄く、2.5cmぶんハンマーバランスのセッティングになっているのだ(ウェイトは95Sが313gだったのに対し、97Sは310gとほとんど変わらない)。
ウェイト(310g)のわりにはトップにバランスが置かれている(33.5cm)という、歴代PRO STAFFの中では少しユニークなスペックだが(錦織のBURN 95は309gで32.5cm)、ディミトロフはこれを「フェイス面のサイド(3時・9時部)が走りやすい。バウンド後に伸びるスライスが打てるし、ストップショットも打てる。フォアでもボールを押さえ込みやすい」とお気に入りの様子。またコーチによるブラインドテストでは「同じようにスイングしても、スピンの精度が上がる」という声も。現代テニスは、『いかにスピードのあるスピンボールを打つか』がプレーヤーの最大関心事であることを考えると、このPRO STAFF 97Sがそれを解決してくれる待望のラケットになる予感がする。
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