17度のグランドスラム優勝、世界ランク1位在位期間と歴代1位となる記録を保持し、その華麗なフォーム、果敢な攻撃的スタイルもあって、"史上最高のプレーヤー"とファンから愛される。誰よりもテニスを愛し、テニスを楽しみ、35歳となっても、テニスへの情熱を失っていない。ロジャー・フェデラーを端的に紹介するとしたら、こんな説明になるだろうか。そのフェデラーがプロ転向を果たしたのは1998年のこと。そこから2016年現在の19年までに"9本の刀"を手に戦ってきた。
ウィンブルドン・ジュニア単複を制覇し、ジュニア・ランキング1位となってプロ転向を果たしたフェデラーの最初の4年間を支えたのは名器「Pro Staff MID」(当時のモデル名はPro Staff 6.0 85)である。当時は110平方インチのいわゆるデカラケやミッドプラスと言われた100平方インチのラケットが主流になりつつあった時代。その中で85平方インチのラケットで戦うというのは、それだけPro Staff MIDを気に入っていたのだろう。
ジュニアNo.1の彼もいきなりの大活躍とはいかなかったものの、ランキングTOP20入りを果たした4年目(2001年)には、ATPツアー(ミラノ大会)初優勝、全仏、ウィンブルドンでベスト8に残るなど、頭角を現していく。
2002年、フェデラーは新たな刀にフェース面積90平方インチの「Hyper Pro Staff 6.1 90」をチョイスする。当時は、ラケットが一気に進化を見せた時代。パワーが必要不可欠になる中で、サイズアップで対応したわけだ。同年は全豪、USオープンの4回戦進出が最高だが、翌2003年「Pro Staff Tour 90」を手にすると、ウィンブルドンでグランドスラム初優勝を果たす。振り返ると、この優勝こそがツアープレーヤーとしてのターニングポイントだったかもしれない。
2004年からは、「n Six. One Tour 90」を使用。このころから、フェデラーの強さは本格化。同ラケットを使った3年間は、全豪2度優勝、ウィンブルドン、USオープンは3度優勝と8つのグランドスラムタイトルを獲得するのだ。忘れてはいけないのは2004年の全豪制覇直後のランキングで初の世界ランク1位になったことだ。
さて、名刀「n Six. One Tour 90」だが、フェデラーのものは市販のラケットとは若干仕様が違っていた。それはフェース中央のストリングの目の粗さ。ウエイトやバランス。ストリングパターンこそ同じだが、PWS(周辺加重機構)部分のホールが4本(市販は5本)になっていたのだ。これは「ウエイトとバランスをいじらずに、もう少しボールを飛ぶようにしてほしい」とフェデラーが要望したため。スイートエリアの目を粗くすることで、ボールの飛びを良くしたというわけだ。
2007年から、「[K] Six. One Tour 90」を手に戦い、3シーズンでグランドスラム6大会(全豪×1、全仏×1、ウィンブルドン×2、US×2 ※ウィンブルドン、USは5連覇達成)を制覇。フェデラーのプライムタイムと言える時代だが、そこにR.ナダルというライバルが現れたことを忘れてはいけない。2008年8月には、そのナダルに1位の座を奪われるが、翌2009年7月に奪い返している。同年は全仏で初優勝を果たし、キャリアグランドスラムを達成した記念すべき年でもある。
大成功を収めた2モデルに続いて、2010年から2シーズン使用したのが、「Six. One Tour BLX 90」である。同モデルの特徴はBLX(バサルト...火山の火口付近に現存する玄武岩を1500度の高熱で溶融し、生み出されるファイバー)を使用したこと。これは「もっとインパクト情報を的確に感じられるものを」というフェデラーからのリクエストに応えて、ウイルソンが「BLX」を使って開発したモデル。何より打球感の良さが売りで、フェデラーのみならず、ドルゴポロフ、ディミトロフといったプレーヤーも使用していた。同モデルでは、グランドスラム16冠目となる2010年全豪優勝のほか、ツアー最終戦で連覇を果たしている。
2012年からの2シーズンは、「Pro Staff Six. One 90」を使用。2012年ウィンブルドンでは17冠目のGSタイトルを手にしている。2013年もウィンブルドンまでは同ラケットを使用していたのだが、その直後のハンブルク大会ではフェデラーが黒塗りのラケットを使う。PWSがないラケット(後にウイルソンがBLADE系のラケットと認めている)に騒然となったが、使用はごく短期間のみ。このタイミングで発表となった「Pro Staff 90」、2014年発売モデルは彼が一度も使用することなく、幻のフェデラーモデルとなっている。
そして2014年。年始最初のブリスベン大会に出場したフェデラーの手には、またも黒塗りのラケットが。ブラックではあるものの、これまでにないフェースの大きさ、フレームの厚みなど、明らかに従来のプロ・スタッフとは異なる形が話題となったことを覚えている人も多いかもしれない。そして2014年ウィンブルドンでは、2年ぶりの決勝進出を果たした。実は127本もの試作品を試していたフェデラーがたどり着いたのが、USオープン直前にコスメがお披露目となった「Pro Staff 97 RF Autograph」である。フェース面積は97平方インチ、フレーム厚は21.5mm、フレーム形状はボックスとラウンドを組み合わせた50/50フレーム、それまでのプロ・スタッフの流れから大きな変革を加えたモデルだった。それは、「パワーがありフィーリングがよく、スタビリティ(安定性)の高いものがほしい」というフェデラーの願いを現実にさせたものだった。
この新ラケットを武器に、2015年は全豪が3回戦敗退、全仏もベスト8敗退だったものの、ウィンブルドン、USオープン、ツアー最終戦ではいずれも決勝進出と復活の狼煙をあげている。迎えた2016年、全豪はベスト4進出を果たしたが、その後、ヒザの治療もあって全仏を欠場。ウィンブルドンではベスト4進出を果たしたが、オリンピックを直前に、今季休養を宣言。直前に発表され、大きな話題となっているタキシードスタイルの「Pro Staff 97 RF Autograph」の使用は、2017年シーズンまでお預けとなった。
35歳、普通なら引退してもおかしくない年齢だ。しかし、いまだそのプレーは、トップレベルにある。"史上最高のプレーヤー"と"完璧なラケット"のタッグ、2017年が今から待ち遠しい。
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