普通、スピン回転量が多くなるとボールが回転することにエネルギーを奪われるためボールスピードは遅くなるもの。しかし“速くて落ちる”という一般プレーヤーにとっては夢のようなショットを次々と繰り出していく。特に男子で世界ランキング・トップ100に入る選手のスイングスピードは尋常ではなく、彼らはスピン回転やスライス回転、スピードという点では悩みがないといってもいいだろう。それよりもラケットを選ぶ際は、その威力あるショットをいかに“コントロール”するかのほうに主眼を置くため、フェイス面やフレームの安定感の高さ、打球感の良さを求める傾向がある。
しかし一般プレーヤーも、スピンを打った時は“速くて落ちる”、スライスを打った時は“バウンド後に滑る”ショットを打ちたいもの。そうした声に応えるべくウイルソンが開発したのが、いわゆる『Sラケ』で、最大の特徴は<縦糸より横糸の本数が少なくなっている>こと。これまでのラケットは16×18や16×19、18×20のように縦糸のほうが横糸より本数が少なかったのだが、ウイルソンは16×15というストリングパターンを採用。これはボールに回転をかける要素のスナップバック(インパクトでズレたストリングが一瞬のうちに元に戻ること)に注目したからで、“縦糸>横糸“のストリングパターンで打つと、同じスイングスピードの場合、ボールに与える回転力と推進力がアップ(スピン・エフェクト・テクノロジー)することが分かったのだ。そして、この“Sラケ”は昨年の発表以来、一度使ったユーザーをとりこにし、評判がジワジワと伝わり、着実に浸透していった。
しかし、それは一般プレーヤーのためのテクノロジーであって、プロには必要とされ ないと思われていたのだが、今年行われた全豪オープンでディミトロフとドルゴポロフが手にしていたのが『Sラケ』であるPRO STAFF 95 S。1球が勝負を分ける厳しい世界に生きるトッププロが選んだというのは、それだけ信頼感があり、『武器になる』と判断したからのこと。オリジナルのPRO STAFF 95 Sが16×15というストリングパターンなのに対し、ディミトロフが手にしていたのは18×17、ドルゴポロフは18×16というカスタマイズされたものだったが、縦糸>横糸の『Sラケ』であることには変わりない。
そもそも一般プレーヤー向けに作られた機能が、その後、プロの使用ラケットにも導入されたものとしては、ハンマーテクノロジー(トップウェイトバランスによるスウィングスピードを向上させるテクノロジー)やパワーホール(グロメットホールの幅を大きくすることで、ストリングの可動域を広めたテクロノジー)が挙げられる。今回のスピン・エフェクト・テクノロジー搭載『Sラケ』もディミトロフ、ドルゴポロフが使用開始したことを考えると、“一般プレーヤーが『Sラケ』を使わない理由が見つからない”とも言えるだろう。
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