各種目ごとに専用のスポーツシューズが存在するが、数ある種目の中でもテニスはかなり特殊なことで知られる。体育館競技や原則として芝の上でプレーされるサッカーなどと違い、ハードコート、クレー、砂入り人工芝などのサーフェスの違いや、全方向への全力ダッシュとストップを繰り返し、グリップ性だけでなく、スライド性も求められ、さらに耐久性にもかなりハードなものが要求される。
ウイルソンは2013年にフランスのサロモン社と共同で、本格的なテニス専用フットウエアの開発に乗り出した。サロモン社と言えばスキーブーツやスノーボードブーツ、アウトドアシューズで世界屈指の技術と経験を誇る名ブランド。それらのフットウエアもテニスと同じく、様々な状況に対応する必要があり、かつ、高い安定性と機動力を求められる分野。そこに、ウイルソンが持つテニスの経験や選手やコーチたちからのフィードバック能力が組み合わせられることで、シューズブランドを超えるフットウエア作りが可能となったのだ。
プロテニス選手はアパレルであればよほどのことがない限り、どこのブランドのシャツやパンツでも着用するが、シューズだけは絶対に妥協しない。たとえアパレルブランドとの契約を結んだとしても、そのブランドにまともなシューズが存在しないのであれば、絶対に着用しない。それはシューズがプレーのパフォーマンスに直結し、故障を防ぐための唯一のギアでもあるからだが、ウイルソンがRUSH PROシリーズをリリースして以降、ウイルソンのフットウエアを着用する選手が増えている。これは、ウイルソンのフットウエアが本物のギアとしての性能を備えていることの何よりの証でもあるのだが、かつてはシューズブランドのシューズを着用していた伊藤竜馬選手はRUSH PROシリーズにしてからは、足にマメができなくなったとさえ話しているのが興味深い。
ウイルソンフットウエアの特徴はフォアフット(前足部)のフィット感とサポートを徹底的に突き詰めたこと。また、単に着用した時の履き心地やサポート性ではなく、「テニスをプレーした時に最大の能力を発揮する動的フィット性能」を追求した点にある。
ダッシュ、ストップ、スライド。テニスにおいて最も頻繁で、強力なフットワークを要求される動作はすべてフォアフットが中心。カカト部の衝撃吸収性も確かに大事だが、最低限度のそれがあればプレーアビリティにおいての問題はないという判断は、凹凸のある地面を走り回るアウトドアシューズ開発に長けたサロモン社と、テニスの実際を知り尽くしたウイルソンらしい割り切り。自動車で言えば、衝突安全性を高めるために堅牢なボディにして重量が増して鈍重になるよりも、衝突を回避する性能を高めることで安全性を高めると言う、アクティブ・セーフティの考え方に近いアプローチが、今のウイルソンフットウエアのありかたなのだ。サポートパーツ満載のヘビーデューティなシューズではなく、あくまでも足の持つ本来の機能を最大限に引き出して、パフォーマンスを高めるという考え方がベースにある。
そうして生まれたのが「絶対的安定感」を誇るRUSH PRO 2.0なのだ。
そしてこのフォアフット・サポートをベースに、MOBILITY(機動性能)を高めたモデルに3シリーズがラインナップしている。 アウトソールにコントロールパネルを搭載した、世界初のスライディング・フットウエア、RUSH PRO GLIDE。こちらはスライディングでの機動性を実現したモデルだ。また高い安定性を維持したまま、軽量性を追求することで機動力の向上を狙っているのがRUSH PRO SLだ。
そしていよいよ、スキンガード(第2の皮膚)を搭載したKAOS(ケイオス)が2月に発売となる。これはフォアフット・サポートという基本性能はそのままに、人間にとって最も快適な足の状態である「素足」の機能を極限まで引き出すことで機動性能を高めるフットウエアだ。これまでのテニスシューズの常識をまたも覆す、新しい考え方である「コンプレッションF.S」が幅広いユーザーのフットワークを刺激するはず。詳しくは次号で紹介するが、ウイルソンが「とにかく一度は履いてみないと損をする」と豪語するKOASに期待してもらいたい。