ウイルソンのラケットは、その時代の王者や女王に愛用されることで、ギアとしての高い信頼性を勝ち取り、名声を築き上げてきた。その中でも、ジミー・コナーズ、クリス・エバート、ステファン・エドバーグ、ステフティ・グラフ、ピート・サンプラス、ロジャー・フェデラーといった過去から現在に連綿と続く名プレーヤーが手にしてきたのが、1985年に発売された『プロスタッフ・ミッド』を起源とするモデルだ。
現在、フェデラーが使用している『PRO STAFF SIX.ONE 90』は、その進化系の最新版と言うことができる。
そして、この『プロスタッフ』の系譜を見ると、1992年に2つの道に分かれたことがわかる。フレームがボックス形状である『プロスタッフ・ミッド』に加え、フレームがラウンド形状(ツアー・ビーム構造)の『プロスタッフ・クラシック 6.1』が発売されたのだ。この『プロスタッフ・クラシック 6.1』を最初に使ったのがエドバーグ。ブラックをベースにレッドとイエローを配色した力強いイメージのコスメを覚えている方も多いはずだ。フレームをラウンド形状にすることで剛性が高まり、それがフェース面の安定感となりスイートエリアの拡大につながる。さらに空気抵抗も少なくなるメリットもある。その結果、『プロスタッフ・ミッド』に比べると楽にボールを飛ばすことができ、楽にスピンやスライスを打つことが可能になった。海外のプレーヤーほどパワーのない日本人プレーヤーに、『プロスタッフ・ミッド』の心地よい打球感を持ったままパワーサポートもしてくれる『プロスタッフ・クラシック 6.1』が受け入れられたのは当然の流れで、さらに日本ではエドバーグ人気が高かったため、この『プロスタッフ・クラシック 6.1』はスマッシュヒット商品となった。
そもそも、ウイルソンがラウンド形状のラケットを発売したのは1987年。その第一号が『プロファイル』だ。この時代は、本格的にパワーテニスの足音が聞こえ始めていた頃であり、スピンをかけた重いボールを打つ選手が活躍するようになっていた。そこで得たラウンド形状のノウハアを名器『プロスタッフ・ミッド』に応用したのが『プロスタッフ・クラシック 6.1』で、グラフが1994年から使い始めた『プロスタッ フ・シュテフィ・グラフ』にもラウンド形状が採用されていた。このエドバーグが使い始めた『プロスタッフ・クラシック 6.1』は、クライチェック、ウッドブリッジといった選手にも愛用されるモデルとなり、2002年まで販売が続けられ、ウイルソンの名器としての評価を得ることとなった。
その後、『プロスタッフ・クラシック 6.1』を引き継いだのが『ハイパー・プロスタッフ6.1』。2002年に発売されたこの『ハイパー・プロスタッフ6.1』は、独特の打球感があるダブルブレイド製法を継承しつつ素材にハイパー・カーボンを採用したことで、これまで以上にフェース面の安定性とパワーを向上させたモデルとなった。そして2005年、ナノテクノロジーを搭載した『n SIX.ONE』として進化し、2007年にはカロファイト・ブラックを採用した『[K]SIX.ONE』となり、2010年にはバサルト・ファイバーを使用した『SIX.ONE BLX』に。この流れを見ると、使用する素材こそ年々進化しているものの、ラケットとしての基本思想は1992年の『プロスタッフ・クラシック 6.1』から一貫して不変であることが分かる。それこそが、<パワーのある『プロスタッフ・ミッド』>なのだ。
そして2012年、その血筋を引き継いで新たに世に送り出されたのが『SIX.ONE 95』。フィッシュやコールシュレイバーという、ストロークだけでなくボレーも含めたオールラウンドに戦うプレーヤーが愛用していることから、攻守の様々な場面で扱いやすいラケットだということが分かるだろう。さらにフィッシュは30歳、コールシュレイバーが28歳。ベテランの2人が使っているということからは、コントロールしやすい適度なパワーアシストがあることも伺える。そのことは、『日本人にとっては非常に扱いやすいラケットとして仕上がっている』と言い換えることができるはずだ。