ウイルソン・ラケットの名器と言えば、1984年の発売以降、コナーズ、エバート、クーリエ、エドバーグ、サンプラスといった歴代のグランドスラム・チャンピオンでありランキングNo.1経験者でもあった名選手が愛用した『プロスタッフ・ミッド』を挙げることができるだろう(開発にはコナーズも加わっている)。
この『プロスタッフ・ミッド』の最大の特徴は、フレームがボックス(箱)形状で、フェース面積が85平方インチと小さいこと。現代のラケットはラウンド形状(少し角が丸くなったタイプ)のフレームがほとんどで、フェース面積も100平方インチが標準。ラウンド形状にすることでフレームが厚くても空気抵抗を減らすことができ、そのぶんラケット自体が持つパワーは大きくなる。大きなパワーを持った100平方インチ前後のフェース面のラケットが現在の主流と言うことができる。
事実、現在男子トップ100選手のうち約4割がSIX.ONE BLXやTOUR BLX、BLADE BLXなどを使用しているが、それらはすべてラウンド形状のフレームでフェース面は95~105平方インチ。元々強靭な肉体を持つ男子プロ選手たが、それでもラケットにもパワーを要求しているのだ。
しかしその中で唯一の例外が、フェデラーが愛用するSIX.ONE TOUR BLX 90。
このラケットはフレームがボックス形状で、フェース面積も90平方インチと現代ラケットの中では最も小さい部類に入る。完全に名器プロスタッフの流れを受け継いだラケットだ。こうしたボックス形状、小さいフェース面のラケットの特徴は、インパクト時にフェース面がつぶれやすいということ。そのため狭いスイートスポットでボールを捕えなければパワーが出にくいラケットなのだが、スイートスポットで捕えた時のパワー出力の感覚、ボールをコントロールしていく絶妙なホールド感は現在の主流ラケットにはないものであることも確かだ。
この感覚は、トッププロだからといってすべての選手が気に入るものではない。また、スイートスポットを外した時のリスクを考えると、並のプレーヤーでは手にするのは難しいだろう。
現在、ツアー選手の中でSIX.ONE TOUR BLX 90を使っているのは、フェデラー、ディミトロフ、ドルゴポロフの3選手だけだ。この3名に共通するのは<天才型プレーヤー>ということはできないだろうか。色々なタイミングで様々なショットを繰り出すフェデラーが天才なのは、誰もが認めることだろう(『テニスの天才』という本も出しているくらいだ)。
また、フェデラーとそっくりのプレースタイルで次世代のNo.1候補であるディミトロフも、明らかに天才型。ドルゴポロフは、他のどのプレーヤーとも似つかないタイミングのとり方、独特のテイクバックからのスイングで、こちらもある意味天才型。こうした天才型というのは、レベルとは関係ないとも言える。『自分が打つショットが結果的によくても、その感覚に自分が納得できなければテニスを楽しめない』というタイプは、レベルには関係ないからだ。実は、あなたもそのタイプなのではないだろうか?!
SIX.ONE TOUR BLX 90