前回のWEBマガジンでは、錦織 圭がウイルソンの新しいモデル『STEAM PRO』を試打した途端にそのパワーとフィーリングに魅入られ、本来なら2012年から使用開始する予定だったその最新ラケットを急遽バーゼル大会から使用し、準決勝でランキングNo.1のジョコビッチを倒すという日本人男子としては初の快挙を成し遂げたことを紹介した。その時は詳細なスペックが明かされていなかったが、今回、その仕様がわかった。
まず特筆すべきは、錦織が使用する『STEAM PRO』は、錦織のために日本主導で作られたモデルということ(JAPAN MODEL)。
テニスは直接体がコンタクトするスポーツではないため、柔道やボクシングのように体重別クラスに分けられているわけではないが、それでもやはり背が高くパワーのある欧米の選手は高い打点からサーブやストロークを打ち込めるため体格で劣る日本人選手は不利だ。それを補うため、錦織が使う『STEAM PRO』はバランスが32.5cmとハンマー・バランスとなっている。重心をラケットヘッド寄りにすることで、振り抜けば振り抜くほど海外選手の重いボールにも負けないパワーとスピンを打つことができるようなセッティングとなっているのだ。
また、この『STEAM PRO』はフレーム全体に使用するバサルト・ファイバーの割合を増やしているのも特徴だ。実は、ウイルソンからは錦織にフェデラーと同じく『アンプリ・フィール・テクノロジー』(グリップ部に衝撃・振動をスムーズにするバサルト・ファイバーを入れた新機能)を採用したテストラケットを送っていたのだが、錦織が選んだのはフレームに使用するバサルト・ファイバーの量を増やしたモデル。グリップの握りが厚い錦織にとっては、この打球感が合っていたようで「自分のフォアを活かせるのはウイルソンのラケットです。
その中でも、今回のモデルは少しスイートスポットをずらして打ったときに、よりクリアなフィーリングになっています。ラケットを変えてすぐに結果が出て、ジョコビッチにも勝てて満足です」とコメントしている。
STEAMには“内側からあふれ出す元気やパワー”という意味があるが、2012年は錦織がこのSTEAMの名にふさわしい活躍をしてくれるだろう。
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チーフ高
スイングしたときに少しスイートスポットを外してもギュンと狙った所にボールを持って行くことができるので、自分のパワーを効率よくボールに伝えるセッティングになっていると感じた。相手のボールにスピードやパワーがあっても力負けせず、打ち返していけるのもいいところだと思う。ハーフスイングではなく、思い切りよくフルスイングしたほうがこのラケットの良さを出せると感じた。
ムラサン
普段の"自分のスイング"に徹してスライスを多用してみたら、とても好印象。打球がネットの白帯の上スレスレをきれいに超えていき、そしてしっかりとベースライン手前に沈んでくれる。スライスに限らず、多様な回転、多彩なショットを実現してくれるラケットだろう。競技指向であるのは間違いないが、高いレベルでいろいろなショットを打つ楽しみを味わいたい人に好まれるのでは。
そして、『STEAM PRO』同様、JAPAN MODELとして作られたのが、内山靖崇が使う『STEAM 95』だ。こちらもバランスが34.0cmとヘッド寄りになったハンマー・システム搭載モデル。これまでも内山は「スピンを打つための高さが出しやすい」とTOUR BLX 95を愛用してきたが、この『STEAM 95』については「高さを出した後にボールを狙った場所に落としていけるキレのあるスピンが打てるようになった」とコメントしている。
内山は、全日本選手権でコスメのない黒塗りラケットを使っていたが、錦織同様、本来の使用開始前に気に入ってしまい、この『STEAM 95』を使っていたのだ。前モデルTOUR BLX 95と『STEAM 95』は、ウエイト、バランス、フレーム厚などのスペックはまったく同じ。『STEAM PRO』と同じようにフレームに使用するバサルト・ファイバーの割合を増やすことで、クリアな打球感でパワー&スピン、そしてコントロールのいいショットを打てるのが特徴だ。このモデルは内山だけでなく、ウイルソンと契約しているほとんどの日本人選手が使う予定。日本人が世界と戦っていくために必要なラケットと言うことができるだろう。
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チーフ高
PROよりラケット自体がパワーを持っているので、ハーフスイングでもボールを飛ばすことかできる。スイングスピードが少し遅い場合は、こちらのほうがストロークでもボレーでもパンチ力がつけやすいと思った。コントロールをつけていきやすい特性はPROと同じ。攻めるだけでなく、守る状況も多くなる場合は、この95が持っている扱いやすい威力が大きなサポートになると思う。
ゆうこリン
ボールに対してフラット系に直線的なスイングをするよりも、スピンをかけるワイパースイングを意識することで、鋭いショットを打つことができるモデル。最後までしっかり振り切って自分の力をぶつけていけば、厚い当たりのパワースピンが可能。振り抜きはいいが、重量があるので初心者や女性プレーヤーが扱うにはやや厳しい印象。ストローク主体でパワーのある男性なら使いこなせると思う。
その『STEAM 95』よりフェース面が5平方インチ大きいのが『STEAM 100』。こちらは、ウィンブルドンでグランドスラム初優勝を飾り、フェド杯ではチェコを優勝に導く原動力となり、年末の最終戦でも優勝した次代の女王クビトワ、そしてUSオープンでグランドスラム初出場を果たしロペスと好試合を演じた伊藤竜馬が使用する。
特徴は、『STEAM PRO』や『STEAM 95』とは形状の違うX LOOPシャフトを採用したことで、フレーム厚は23mmだが若干の“しなり”が生まれたこと。JAPAN MODELではなく世界中で発売されるのも他の2モデルとの違いで、元々パワーのある選手がよりコントロール性の高いショットを打てるように調整されているため、伊藤も「ウイルソンのラケットは線ではなく点で狙った所に打っていけるのですが、今回の最新ラケットはそれを生かしながらさらにパワーが出るようになりました」とコメントしている。フェース面が大きいものを好むストローカーには、この『STEAM 100』がいいだろう。
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チーフ高
フレーム自体にものスゴイ重厚感が感じられる。本物感と言い換えてもいい。最初の1球目から、「自分よりはるかに高いレベルのラケットだ…」と腰が引けてしまったが、真ん中で捕らえられた時の打球の"重さ"やしっかりとした回転感覚は、自分自身が打った印象と、このラケットを使った相手から飛んできたボールの重さでピタリと一致。特にドライブがかかったボールの重さにそれを感じた。
ゆうこリン
「95」と同様にスピンボールを打つのに合うモデル。打球面にボールが乗っている感覚を味わえる。「95」に比べて、面が大きくなった分スイートスポットが広くなって、当たり損ねが少なくなりボレーをラクに打つことができた。ただ、パワーのサポートはあまり感じられないので、威力のあるボールを打つには自らしっかり振っていく必要がある。正直、非力な私が扱うには難しかった。