サーブ&ボレーやアプローチ&ネットダッシュをして早めに仕掛ける選手が少なくなってきた現在、力が伯仲した選手同士が対戦すると男子といえども1ポイントが決まるまでのラリー回数が増える傾向にある。
例えば、今年の全豪オープン決勝。1ポイントが決まるまでに続いた最大ラリー回数は実に36回で、20回以上のラリーでポイントが決まるのは珍しいことではなくなっている。こうした数字からは、グランドスラムで優勝するには、それを5セット戦うだけのフィジカルとメンタルのタフさが必要という厳しい現実が分かるが、もっと単純に「どうしてラリーが長くなったのか」に焦点を当てると<守備力のレベルアップ>が挙げられる。決して攻撃力が低くなったのではなく、守備力が高くなったのだ。事実、これまでであれば返ってこなかったか返ってきてもチャンスボールなので次に楽に決めることができるケースだったのが、再びベースライン深くまで狙ったようにコントロールされたボールが返ってくるため連続攻撃が難しくなっている。
そうした傾向を踏まえて、9月にウイルソンから発売されるNEW STeamのコンセプトは、「苦しい時のディフェンス力」。
そのために着目されたのが、フェース面のトップ部で打った時のボールの飛び。苦しい時のディフェンスというのは、やっとボールに届くという状況がほとんど。そんな時は、ラケットの先=フェース面のトップ部分で打つことになる。逆にしっかりと自分の体勢で打てる時は、ボールが飛びすぎるのは困りもの。変にラケット全体のスイートスポットを拡大するのではなくトップ部にスイートスポットを拡大するというのが、NEW STeamの開発コンセプトなのだ。
そして、そのトップ部だけのスイートスポットの拡大のために用いられたテクノロジーが「パラレル・ドリル」。これはストリングを通すための穴(ストリングホール)をストリングが引っ張られるのと同じ方向に空けるというもの。従来のストリングホールは、楕円形のフレームに対し垂直に空けていたため、フレームの外側から内側にストリングが入って来る角度とストリングが引っ張られる方向に若干の差が生まれ、その結果、上下左右の真ん中の1本を除き、他のストリングはすべてフレームの内側にストリングが接していた。それが「パラレル・ドリル」を用いることで、ストリングが接する点がフレームの外側に移動。そのぶんストリングの可動域が広くなり、結果的にスイートスポットが拡大するのだ。
ウイルソンは、この「パラレル・ドリル」テクノロジーをトップの10ホールと左右のサイド各14ホールに採用。すべてのストリングホールに適用すると全方向にスイートスポットが広がり打球感が大きく変わるため、あえて限定使用としたのだ。これにより、NEW STeamは従来のものよりトップ方向を中心に約10mmスイートスポットが拡大。ある程度技術力のあるプレーヤーが使えば、大きく試合の結果に直結する力を持ったラケットがこのNEW STeamなのだ。