昨年10月、地元日本のテニスの聖地、有明コロシアムで行われた楽天ジャパンオープンで見事優勝を飾った錦織 圭。2回戦でロブレド、準々決勝でベルディッチ、準決勝でバグダティス、決勝でラオニッチと強豪を次々と連破しての栄冠だった。しかし実は第2シードのベルディッチとの準々決勝後、錦織からウイルソンに対し「試合に勝ったことは満足していますが、トップクラスのシード選手と戦う時は守りが課題になります。相手から攻められてやっと届いたようなボールでも、もうちょっと深く返して相手にダメージを与えたいんですよね。でも、打った感じは変えないでほしいんです」というリクエストがあった。
これはベルディッチと戦ったことで、今後トップ4やトップ5クラスの選手と戦う時に何が大切になるのかを錦織なりに感じ取ったからこその言葉だ。7月26日付けのATPランキングで11位の錦織は、トップ10入りについて「入るだけでは意味がありません。その地位をしっかり確立することが目標です」とコメントしているが、そのためにはグランドスラムなどでトップ4クラスの選手を破りベスト8、ベスト4に入ることが必要となる。そのために、今後の自分に必要なのが「いかに劣勢な状況をイーブン以上に戻すか」ということなのだろう。そうした「打感はこれまでのまま、やっと届いたボールをもうちょっと深く返し、相手にダメージを与えたい」という錦織の要望に対し、アメリカ・シカゴにあるウイルソン開発センターが用意したのが「パラレル・ドリル」という新しいテクノロジーだ。
開発当初は、既にウイルソンが持っている「パワーホール」(1cm幅のグロメットホール。打球時のスリング可動域が56度と通常の22度の2倍以上に広がる)を搭載することが検討された。しかし、それでは打球感が大きく変わることに。そこでウイルソンが注目したのが、ストリングを通すための穴(ストリングホール)の空け方。これまでのSTeamではストリングホールを楕円形のフレームに対し垂直に空けていたのだが、それではラケット面の上下左右数本を除いた他のストリングはフレームの外側から内側にストリングが入ってくる角度とストリングが引っ張られる方向に若干の差ができ、フレームの内側でストリングが接することに。これに対し、ストリングが引っ張られるのと同じ方向にストリングホールを空けるのが「パラレル・ドリル」。その結果、ストリングがフレームに接する部分が外側に移動。そのフレーム厚のぶんストリングの可動域が広くなり、スイートスポットの拡大とパワーアップにつながることになったのだ。
そしてNEW STeamでは、この「パラレル・ドリル」をトップの10ホールとサイド左右各14ホールにだけ採用している。全面に使用するとスイートスポットが大きく広がるのだが、錦織が「打球感がぼやける」と嫌ったため、守備的状況になる時に使うトップ方向のスイートスポットだけを広げるべく、あえてトップ部分だけの限定搭載としたのだ。この<トップ10+サイド14>を決めるに当たっては、他にも<トップ12+サイド16>、<トップ8+サイド12>、<トップ12のみ>など様々なパターンのモデルが用意されたのだが、その中から錦織が選んだのがこの<トップ10+サイド14>のパターン。このNEW STeamの出来に非常に満足した錦織は、いきなり7月29日からのワシントンDC大会で使用を開始。それだけ錦織が『即戦力になる』と判断したのだ。
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