#アルパワー史上最強説 「ルキシロン・ショット」の誕生 1997年6月8日


1997年6月8日、全仏オープン決勝その試合は、歴史の転換点だった「ストリングが新時代を作った。極端な話、何時間打ってもミスが出づらくなった。あれは、テニスの可能性が広がった瞬間だと思う」
クエルテングスタボ・クエルテン(ブラジル)の言葉である。1997年6月8日、この日、20歳だった“グーガ”は、セルジ・ブルゲラ(スペイン)を6-3、6-4、6-2のストレートで倒して、全仏初優勝を成し遂げた。得点を積み重ねていく形式のテニスは、番狂わせが起きにくいスポーツだと言われる。しかも当時、クエルテンのランキングは66位。ATP大会出場は、19大会しか出場しておらず、優勝はチャレンジャー大会で一度だけ。そんな選手が、優勝を果たしたのだから、「Unexpected Winner(伏兵優勝)」「The most surprising champion(最も衝撃を与えた覇者だ)」と報道されても無理はない。
今、振り返ると、あの優勝は、テニスの歴史が変わる転換点だったと言える。 何が変わったのか? プロにルキシロンのポリエステル・ストリング「アルパワー」が浸透するきっかけになったのだ。
進化するラケットに対しての答えがなかったその中で登場したクエルテンと救世主
ただでさえ「フェイスサイズが大きくなっていき、どの選手もパワフルなショットを打つように変化していた。明らかにゲームに変化が起きていた」(アンドレ・アガシ/アメリカ)時代、その中で、グーガは『ルキシロンのポリエステル・ストリング』という武器を得てプレーしていた。テニス・ラケットに張るものは、長らくナチュラル(ガット)が主流だったストリングだが、そこにシンセティック・ストリングが登場。それでも、進化するラケットに追いついていない状況だった。それはヨナス・ビョークマン(スウェーデン)の「(当時)より良いショットを打つために、スピード重視にするか、スピン重視にするかの二択しかなかった。どちらもアップさせようとすると、ミスをするリスクが高まるからだ」という言葉からもわかる。

クエルテンそんな中、彗星のように現れたのがクエルテンだったのだ。長身で細身、その体から放たれる強烈なショット。そのプレーに対して、息を飲んで見守ったのは観客だけではない。未知の軌道を見せるボールにプロたちも驚いていたのだ。かつてのトップ10選手、アメリカのトッド・マーティンも、その時のことを「『8フィート(約244cm)くらい、オーバーしそうだ』という打球がコートの中に落ちるのだから驚きだった」とコメントしている。それまでの常識では考えられないスピードとスピンが効いたボール。とりわけ『回り込み逆クロスのフォアハンド』は、驚くべき軌道だった。普通ならサイドアウトする速度のボールが、ネットを越えて“ストン”とサイドライン手前に入るからだ。

イギリスの『TIME』誌が取り上げるほどの話題となった「ルキシロン・ショット」そのショットのことは後に、イギリスのニュース雑誌『TIME』の中で、「ルキシロン・ショット」として、下記のように紹介されることになる。

――プロ選手たちは、それを「ルキシロン・ショット」と呼ぶ。あなたも耳にしたことがあるかもしれない。唸りを上げて飛んでいくボールで、致命的なほどのトップスピンがかかっている。ショートクロスに打たれたボールが、直線から曲線へと急変化してコートに落ちる。元プロのスコット・マケインコーチは「まるで卓球のような変化だ」と語っている。そのボールは、1997年全仏でクエルテンが、モノ構造のルキシロンのポリエステル・ストリングで打ったものである
――<原稿は『TIME』誌の記事の翻訳>



TIME

プライベートストリンガーとして有名なネイト・ファーガソン(プライオリティー・ワン。フェデラーらのストリンガーとして有名)は、「ルキシロンが、試合を大きく進化させることとなった」と語り、ダレン・ケーヒル(イギリス、現ハレプコーチ)は、「あのころから多くのプレーヤーが、コート後方にポジションを取り、大きなスイングでボールを叩くようになった。同時に、ネット・プレーヤー不遇の時代は始まったんだ」と振り返る。
97年全仏優勝時、クエルテンはルキシロン「オリジナル(1.30mm、57ポンド)を張っていたが、すぐに「アルパワー(1.25mm、40ポンド台後半~50ポンド台前半)」に変更。2000年、2001年にも全仏で優勝を果たしている。余談だが、クエルテンは後に「ちょうどこのころ、ポリ・ストリングがフィットしないアガシが『ATPが使用を禁止にすべきだ』と文句を言っていたよ(笑)」と暴露している。


なぜ、プロがこぞって「アルパワー」を使うのか?それは、アルパワーだからこその性能があるからだ

ルキシロンの『アルパワー』がツアーを席巻しはじめたのは、ちょうど21世紀を迎えるころから。人気の高まりを見て、他社もポリエステル・ストリングを作るが、現在まで、そのシェアは揺るがずにいる。なぜ、それほどまでに『アルパワー』が選ばれるのか?
LUXILON ALUPOWER普通、ボールを捕らえるとストリング面は全体がたわんで戻る。ところがルキシロン社のポリは違うのだという。スイング速度が速いプレーヤーだからこそだが、ボールを捕らえた際、その周辺のみが凹んで戻るのだという。これがアルパワー独自のパワー、ホールド感、そして大きなスナップバック(インパクトの際、縦糸がズレて戻る動きのこと。そのズレ幅の大きさ、戻る速度の速さで回転数が決まる)が生まれる秘密である。だから、スピードとスピンが両立するわけだ。前回もご紹介したとおり、ツアーの中でルキシロン『アルパワー』は、今なお最も使用されているポリエステル・ストリングである。実は、あの選手も、あの選手もという状態で、自分でお金を出して購入しているプレーヤーも数多いのだという。製造の過程でアップデートが行われていることはもちろんだが、20年を経てもシェアがゆるがないというのは、それだけルキシロン社のクオリティーが高いからと言える。