2017年シーズン、錦織が使用するNEW「BURN 95CV」が2016年12月29日に発売。そこから2ヵ月後の2017年2月、「KEI'S CHOICE PREMIER III」が新発売される。文字どおり、錦織 圭が使用している"ハイブリッド張り用ストリング"である。
前作(Kei's Choice Premier II)の組み合わせは「ウイルソン・ナチュラル×4G(ポリ)」というもの。その後、"もっとボールをしばきたい"という錦織からのリクエストに応えて、しなやかさ・柔らかさが特徴のポリ・ストリング「4G」を改良。しっかり叩けて、コントロールブレが少なく、球乗りを良くした「4Gソフト」を加えたのが新パッケージである。
「ホールド感が良くて、ボールを"しばけます"。それがストリングに求めていたものです」と錦織の感触も上々。実は、2015年5月から、「4Gソフト」の使用を始めていた。当時の組み合わせは、メイン(縦)に「4Gソフト」、クロス(横)に「ウイルソン・ナチュラル」という組み合わせだった。このセッティングで戦った2015年のフレンチオープン4回戦・ガバシュビリ戦。第3セット3-1、40-30からガバシュビリのサービスゲームをブレークした際、錦織がフォアサイドに大きく振られ、フォアハンドのスライスで切り替えしたボールの伸びに錦織自身も驚き、後に「球乗り感と伸びがはんぱない!」とコメントしている。4Gソフトのパワーをあらためて認識したようだ。 またこの頃は、縦糸より横糸のテンションを高めに設定することで、より縦に長いスウィートエリアを作っていたことも、錦織がストリングに求める「ボールを"しばける"」という感触をアップする要因になっていた。
しかし、2015年末、錦織は"メインにナチュラル、クロスに4Gソフト"という組み合わせにスイッチしている。
メインにナチュラルを使うハイブリッド張りは、特に飛距離を強化できるもの。この組み合わせ、錦織をもってしても、「何度も試したがしっくり来なかった」「コントロールがまったくできなかった」組み合わせ。ではなぜ、あえて選んだのか? それは「体の負担を考えて」(錦織)だという。メインにポリを使う組み合わせの場合、スピンがかけやすいが、ナチュラルよりは飛距離が抑えられるため、全力でスイングする機会が増える。一方、ナチュラルをメインに使用すれば、飛距離は出やすいので、全力でのスイングが少なくなる=体の負担・疲れが減るというわけだ。錦織も「全力で打たなくても、ボールが飛んでくれる」と語っている。
と、ここまではメリットばかりに聞こえるかも知れないが、実は錦織本人もこの決定までに時間を要したように、それなりのリスクも含まれているのだ。それはスウィートスポットを外してしまうと、どこに飛んでいくか分からないほどの過剰ともいえるパワーなのだ。いわば「荒れ狂う猛牛に、何時間も乗り続ける」ということ。さらに、テンションのことで興味深い話がある。
錦織はかつてのテンション(50ポンド台中盤)から下げて、40ポンド台前半で張って、飛ぶようにしているということ。メインにパワーのあるナチュラルを張り、さらに飛びやすいローテンションで張るとどうなるか? インパクトを少しでも外したら、コントロール不能になってしまう危険性があるのだ。
ポイントから少しずれただけでも、ショットはミスにつながる。自ら「コントロールがまったくできない」と語っていたものを、今、使いこなしているのだから、短期間にそれだけ技量を上げたというとうこと。あまりにすごい話である。
そして、セッティングに関しても2015年度から変更している。前述したように、今までは縦糸より横糸のテンションを上げて、スウィートエリアを縦に広げていたが、2016年度からは縦糸を横糸よりテンションを上げて、スウィートエリアを丸くしている。これは今まで以上にスピン性能を発揮しやすくするためのセッティングだと言える。
錦織が選んだストリング・セットを錦織流のセッティングで張り、実感はどんなものかは、ファンでなくても気にはなってしまう。ただし、上記の話を考えても、一般ユーザーは、よほど腕に自信がない限り、まずは多くのツアープレーヤーも選ぶ「縦:4Gソフト×横:ウイルソン・ナチュラル」にすべきだろう。それほど、縦ナチュラル... の組み合わせは難易度が高いものなのだ。もちろん、それを知ってのうえで、あえてチャレンジしてみる、というのもおもしろいかもしれないが。
|