話は9年前までさかのぼる――。
錦織圭選手が弱冠20歳の時のことだ。ウイルソンで錦織選手の担当をする道場氏は、ニューヨークに向かい、錦織選手の両親、マネージャーのオリバー氏が立ち合いの下、2度目の契約更新を交わした。その際、「本人デザインのモデル」についての話がなされたという。『将来的に、実現させたい』、ずっと温めてきたアイディアだった。
本人デザインのモデルと言えば、2016年に、ロジャー・フェデラーが共同開発者となって、誕生した「PRO STAFF RF97 AUTOGRAPH」が有名だ。革新のウイルソンといえど、選手によるオリジナル・デザインの実現例は多くはない。しかし、昨年末、ウイルソン・ジャパンは、本国に錦織デザインモデルの申請が許可された。ウイルソンにとって現役では2人目(1人目はフェデラー)となる生涯契約を交わしたプレイヤーであり、ウイルソンのラケットをこよなく愛する錦織選手だからこそ、出たOKと言ってもいいだろう。
これまで、ラケットに求めるものとしては一貫して「パワー」を求めてきた錦織選手だが、デザインに関しての要望は、ほとんどなかったという。
そんな錦織選手は、どんな好みを持っているのか? 今年の3月・ATP1000インディアンウェルズ大会でデザイン開発のためのミーティングが行われた。インスピレーションを引き出すために用意していた世界の風景写真や商品写真をめくっていくと、錦織選手の目に1枚の写真が留まった。
『あ! ここ覚えています。いいですね』
写っていたのは、自らの出身地・島根にある名所・出雲日御碕灯台<いずもひのみさきとうだい>。1903年(明治36年)に設置され、世界の歴史的灯台百選、国の登録有形文化財にも選ばれている、この灯台は高さ43.65m(灯塔の頭上までは63.3m)と日本一の高さを誇る。言わば、島根を象徴する物の一つでもある。
真っ青な空、青い海に向かって立ち、築100年を超える今でも海の向こうからやってくる船舶の道標となっている灯台。それは島根を、日本を代表して世界と戦うNISHIKORIにぴったりのモチーフと言える。
そしてウイルソンは、さまざまなデザイン案を作り10本の試作モデルを作成。6月上旬、全仏直後に本人が直接セレクトし、真っ青な空、青い海からブルーを基調にし、灯台はフープ部トップに配す形のコスメに決定した。錦織選手は、シャフト部にシルバーで入ったウイルソンロゴが「かっこいい」とお気に入りだという。
『ULTRA TOUR 95CV Kei Limited 2019』は、国内1,200本限定で9月27日に発売開始。錦織選手は、週明け9月30日から本戦がスタートする楽天オープン2019に、このスペシャルモデルを持って戦うことが決まっている。
有明コロシアムで目指すのは『5年ぶりの優勝』だ。自身がデザインに参画したスペシャルモデルは、その後押しをすることになるだろう。
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