「僕は何もジョコビッチの記録を止めるために戦ったんじゃないよ。いいプレーをして、ただ決勝戦に進みたかっただけさ」。ローランギャロスの準決勝。今季開幕41連勝で、この準決勝に勝てばジョン・マッケンローが1984年に記録した史上最長記録に並び、同時にランキングでもNo.1へと王手をかけていたジョコビッチの前に立ちふさがり、その健在ぶりを改めて満天下に示したのが『史上最強と言われる男』フェデラーだったのは、なんとも劇的だった。続く決勝戦では惜しくもナダルに敗れたものの、その攻撃力と球際の強さ、咄嗟に繰り出すショットの多彩さは今もツアー随一。ジョコビッチとナダルばかりに注目が集まるローランギャロスで「みんな僕が戻ってきたというけれど、今までだっていなくなっていたわけじゃないんだけどね」と笑顔を見せ、シーズン後半の巻き返しへ意欲を見せている。
6月20日から始まったウィンブルドンは、過去5連覇を含め6勝とまさに『自分の庭』にしている舞台。フェデラー自身「僕という選手が始まった場所で、1年でもっとも大事な大会」と語るほど思い入れも強い。No.1復帰もまだまだ諦めてはいない。クレーコート・シーズン中には「僕が№1に戻るのは、現実的な目標だと思っている。ウィンブルドンが終わったあとに、もう一度その話をしたいね」とまで語っているだけに、今年のウィンブルドンは要注目だ。芝では経験と順応性、先制攻撃力が重要になる。そのすべてを持ち合わせ、自信も回復させてきている。フェデラーが最強の王者として復活するお膳立ては整っている。
ローランギャロスは病気休養明け。出場そのものも危うかったという中で、きっちりと1回戦を突破して見せたあたりは、やはり破格。錦織 圭にとってのグランドスラムは、夢でも目標でもなく『戦いの場』であることを改めて見せてくれた。そのローランギャロスで目立っていたのは、バックハンドが強くなったこと。これまでの錦織のバックハンドは、武器とするフォアハンドで決める展開を作るためのコントロールショットとしての色合いが強かったが、今ではバックハンドからでも直接ポイントを取りに行けるだけのパワーと自在性が身に付きつつある。何よりも進歩したのは、タイミングを合わせて捌くだけでなく、必要なら強引に巻き込んで角度をつけ、バウンド後の威力もしっかりと確保した生きたボールをコート全面に打てるようになったこと。フィジカルの向上と共に、その攻撃の幅も広がってきた。
2008年に初めてグランドスラムの本戦入りを果たしたのが、錦織にとってのウィンブルドン。いわば始まりの場所だ。昨年は1回戦でナダルと当たり、早くもセンターコートで戦うという経験を積んだものの、まだ一度も勝ったことがない。「芝はポイントが早く決まるのでやりやすい」と話していたこともあるのだが、今年はまずは1勝を挙げるところからのスタートという気持で挑んでくるだろう。一つ勝って弾みがつけば、あとは勢いでどこまで行けるか。それを期待してもいいだけの実力はすでについている。
ランキング156位で今季をスタートしたラオニックが、今やグランドスラムではシードがつくトップ30位以内に入れたのは、春の北米シリーズでの大活躍が理由。メンバー的に手薄になりやすい時期とはいえ、モンフィスとベルダスコに勝利してのサンノゼ優勝は価値あるものとなった。その後、一時背中や右肩を傷めてスローダウンしたが、クレーコート・シーズンに入ってもモンテカルロではロドラとグルビス、エストリルではシモンから勝ち星を挙げるなど強敵相手でもすでに戦えるところを見せた。
最大の武器は何と言っても強烈なサーブとフォアハンド。特にサーブでは2月のメンフィスで大会通算129本を記録。これは2001年に「スカッドサーブ」の異名で知られたマーク・フィリポーシスが記録した106本を大きく上回る大会新記録で、1試合平均25.8本というのははっきり言って並の数字ではない。
ローランギャロスでは1回戦で敗れたが、彼の特性が生きるのはやはり高速系サーフェス。中でも芝はビッグサーバーにとっての天国。自分のサービスゲームをきっちりとキープして、リターンゲームに集中する展開を作れれば、相手が誰であれ大番狂わせを起こしても不思議ではない。まだ20歳で顔には幼さも残るが、次世代のスーパースター候補としての雰囲気を持つ大器だけに、今年のウィンブルドンを大ブレイクの舞台にしたいところだ。
昨年のウィンブルドン・ベスト4は決してフロックではなく、積み上げてきた実力の開花によるものだったというのを示したこの1年だった。ローランギャロスでもその強打にモノを言わせて4回戦まで進出。優勝した李娜をあと一歩のところまで追い詰めてみせた。
女子ではモニカ・セレス以来となるレフティの本格派。強烈なストロークは手が付けられない威力を誇り、サーブ力でも女子屈指で、実力伯仲で戦国時代となった女子の中では最も警戒すべき選手の一人と言ってもいい。パワーが最大の武器ではあるものの、テニス大国チェコ育ちらしく、意外にしっかりとした技術がそのテニスのベースを形作っている選手でもあり、大崩れせずに試合をまとめられるのも強みだ。
今年のウィンブルドンでも当然上位進出が期待されるが、心配なのは昨年の活躍が逆に彼女にとってプレッシャーになりかねないということ。だが、この1年で築き上げた自信と意外に明るい性格は、そうしたマイナスの要素を補ってあまりあるものがあるはず。先に強打を決めて主導権を握り、一気に試合を決めてしまう。そんな彼女のテニスが再現できれば、今年は優勝候補の一角に挙げてもいいレベルの選手に成長してきた。
長い沈黙を続けていた最強の姉妹がコートに戻ってくる。ウィンブルドンは彼女たちにとって絶対に譲れない聖地。なにしろ2000年にヴィーナスが初優勝して以来の11年間で、姉妹以外の選手に優勝を許したのはたった04年のシャラポワと、06年のモウレスモの2回だけ。それも06年はセリーナが出場せず、ヴィーナスは右手首を傷めていて絶不調だった年で、姉妹のどちらかが決勝に進めなかったのは、04年だけという圧倒的な強さを誇る大会なのだ。
彼女たちがウィンブルドンのタイトルにこだわる理由は、何よりもその伝統と格式に対するリスペクトの深さと、そこにアメリカの底辺層からはいあがってきた自分たちが名を連ねることの意味の重さを重視しているからだというが、芝という条件が彼女たちのテニスにマッチしているのも大きい。
ウイリアムズ姉妹と言うと、どうしてもその卓越したスピードとパワーに目が行ってしまうが、実は両者ともに非常に丁寧にボールを扱うタイプであり、また的確に相手の返球のコースを読み、準備を早くして確率の高いテニスができる選手でもある。芝で戦う上で必要なパワーとスピード、そして確実性を兼ね備えているのが彼女たちなのだ。
現時点でのランキングなど関係ない。彼女たちがコートに立っている時には、常に優勝候補たりえる。確実にテニス史に残る伝説の姉妹の活躍を今年も期待できるだろう。