2017年全仏オープン、錦織 圭の成績はベスト8。それは2年前の全仏最高成績と同じ。だが、優勝の可能性も垣間見られただけに、悔やまれる全仏だった。
錦織がこの全仏で握ったラケットは、「BURN 95 CV REVERSE(数量限定かつ日本限定モデル)」。前哨戦から使い出したスペシャルモデルだ。そこに込められた想いは"劣勢をひっくり返せ"。そのラケットの力もあったのかもしれない。何度となく訪れた難局を乗り越えてのベスト8だった。
1回戦の相手は、コキナキスだった。故障からやっと復活したオーストラリア期待の若手だ。試合の前には"作戦を立てなければならない"と語るなど、錦織も警戒をして臨んだ初戦だった。しかし、コキナキスは「予想以上に打ってきて面喰った...」(錦織)というように、第1セットは奪われてしまう。しかし、ここで自分のプレーを上げられるのが錦織の強さ。立て直すと3-1で退けた。続く2回戦のシャルディ戦は、終始、相手を圧倒。シャルディも「なすすべがなかった」と振り返ったとおり、途中12ゲームを連取するなど、錦織のショットが冴えわたり、ストレートで勝利すると、シャルディはその強さに"優勝の可能性がある"と太鼓判を押した。
しかし、続く3回戦チョン(韓国)、4回戦ベルダスコ(スペイン)は思わぬ苦戦を強いられることに。
3回戦、錦織は2セットアップするが、チョンが徐々に錦織のショットに対応を始める。第3セットを奪われると流れが変わり、第4セットを0-3とされてしまう。なかなかショットが決まらない状況に、錦織も明らかにフラストレーションを貯めていたが、ここで雨天により試合が中断される。翌日に持ち越された試合は、その第4セットはベーグル(0-6)を決められてしまう。ただ、休んだことで状況は好転していた。"諦めずに戦った"という錦織は、第5セットに入ると、主導権を奪い返し、何とか勝利をもぎ取った。
4回戦のベルダスコ戦、第1セットは、まさかのベーグルを食らい、錦織の動きも本来のものではなかった。「このままいくと簡単にやられる。少しでも深く返して、攻めの形に転じようと意識した。そうしたらボールがラケットに乗る感覚が出てきた」と錦織。第2セットに入ると、力感こそないものの、ベースラインの中でベルダスコのボールを処理してキープしていく。すると、ベルダスコが徐々にバテていく。強打するものの、決め切れないベルダスコ。その中で、錦織は復活した。6-4、6-4とセットを連取すると、第4セットは6-0。準々決勝進出を決めた。
そして、準決勝の相手は世界No.1のA.マレー(イギリス)。記憶に新しいのはUSオープンでの勝利だ(が、会見で質問されると、錦織はそのことを覚えていないらしい...)。
ベルダスコ戦終盤で、つかんだリズム。それをこの試合に持ち込んだようだった。第1セット、速いテンポで左右にショトを打ち分けると、世界No.1をショットで翻弄。6-2で第1セットを奪った。ただ、簡単に敗れるマレーではない。第2セットを奪い返されると、第3セットはタイブレークに。ここで錦織は、まさかのミスが続いてしまう。1ポイントも奪えずに、タイブレークを落とすと、第4セット、マレーが隙を見せることはなかった。 「集中力を持続して攻撃的にプレーしていれば、戦況は変わっていたかもしれない」、錦織は試合後に振り返っている。
敗れはしたものの、いくつもの劣勢をひっくり返して勝利をものにした。特にベルダスコ戦終盤、そしてマレー戦の第1セットでは、ゾーンに入ったかのように、試合を支配した。そのプレーぶりは、2014年のUSオープン(準優勝)とダブるもの。"近い内に、高みにチャレンジするチャンスがあるはず"――見ている者にそんな予感を持たせるプレーぶりだった。
1回戦勝利の瞬間、歓喜したペトラ・クビトワは、PRO STAFF 97を赤土の上に置くと両手で口を覆った。数秒、コートを見つめ、再び顔を上げると、その目には涙が浮かんでいた――。
「センターコートの雰囲気は、あまりにも素晴らしいものだったわ。みんなが私の名前を叫んでくれた。温かい"お帰り"という気持ちが、うれしかった。テニスができたことが幸せ」
ウィンブルドン女王(2011年、2014年優勝)に2度輝いたクビトワ。彼女が悲劇に見舞われたのは昨年12月20日。チェコの自宅で暴漢に襲われると、大事な左手にひどい傷を負った。一時は、復帰は無理という報道も。実際、主治医は"復帰の可能性は低い"と見ていたという。苦しいリハビリ生活を送り、6月の復帰を目指してトレーニングを続けていた。しかし、その予定より早く彼女は復帰を選ぶ。
ケガをしても"テクニックに修正を加える必要なかった"と言うように、左手で強烈なフォアハンドを放っていく。1回戦のボーザラップ戦は6-3、6-2で勝利。2回戦ではマテック サンズと拮抗した展開に。第1セットを6(5)-7で落とすと、第2セット、1-3とブレークを許したが、ここからタイブレークに持ち込む奮闘を見せた。
「全豪に出られなかったこと、自分がいないコートを見ることは、本当に寂しい想いをしたし、悲しい気分だった。でも、こうして(全仏で)プレーできたことは、自分でも驚き。負けてしまったけど、いい戦いができたと思う。実はドクターには、痛んだら棄権をするようにと言われていたの」とクビトワ。全仏直後に明らかにしたが、実は左手の指2本の感覚はまだ戻っていないのだという。その状態で、トッププロとしてのテニスをしていたということ。直後のグランドスラムは、彼女が得意とするウィンブルドンである。復帰という目標は達成できた。次なる目標は「優勝」だろう。苦しいリハビリを耐えている彼女なら、きっとその奇跡を我々に見せてくれることだろう。
「とてもストロングなプレーヤーだ。若手の中でも特に有望だと思う。ビッグサーブがあり、パワフルなビッグショットが打てて、何より、素晴らしいタイミングで打てている」(A.マレー)
初めての全仏オープン本戦で、4回戦に進出。そして、相手はマレーだ。結果的に、ストレートで敗れたものの、世界No.1を唸らせる局面をいくつも作った。特に目立ったのは、やはり"サンダー(カミナリ)"とも形容されるフォアハンドである。198cmという長身をフルに生かし、BLADE 98(18×20)で渾身のショットを放つ。それは、今大会、何十本ものウィナーを奪ったショットだ。1回戦ジャリーに3-1、2回戦ではベルディッチにストレート勝ちのアップセットを起こす。続く3回戦では、イズナー(3-1)をも退けた。わずかグランドスラム3大会目で、キャリアハイとなるGS4回戦にコマを進めた。「キャリアベストの結果を残すことができた」とカチャノフ。「目標は、いい内容の試合をすることだった。どの試合もしっかり準備して臨むことができたことが大きい。そして世界No.1との試合をセンターコートで経験できたことは、大きな経験となった」と語るなど自信を深めた大会となった。
全仏開始時点で49位。22歳にして、イギリスのNo.2となっているカイル・エドムンド。その魅力はコンパクトながら、強烈なフォアハンドを筆頭に、巧みなバックハンド、そしてフットワークと多岐に渡る。だからこそ、使用するPRO STAFF 97との相性もいいのかもしれない。今大会も、オールマイティーさを発揮した。
1回戦のエリアム、2回戦オリーボといずれもストレート勝ち。そうして迎えた3回戦のアンダーソン戦。元トップ10の選手を相手に、自信を持って臨み、実際7-6(6)、6(4)-7、7-5とセットカウント2‐1とリードしていたが、続く第4セットは取りきれず、第5セットも拮抗した展開とはなったが、主導権を握ることはできず。3回戦敗退で終わった。
「身体的に苦しい試合だった。長いラリーは避けたかったが、フットワークを生かす場面が多くあった。ただ、適切な判断はできていたと思う」と振り返ったエドムンド。敗れはしたが、「5セットマッチでは、集中力がカギ。それを持続できたことが、(1、2回戦)ストレート勝利につながった」と収穫も得られた大会となった。
カレーニョ・ブスタのキャリアにとって、2017年全仏は大きな転機となる大会かもしれない。徐々にレベルを上げてきた彼は、昨年のUSオープンに続き、全豪で3回戦進出。インディアンウェルズ・マスターズではベスト4に入るなど、調子の波に乗っている中、BURN 100S CVリバースを武器に全仏を迎えた。
スペイン人選手といえば、クレー巧者が多いことで知られる。カレーニョ・ブスタも例外でなく、クレーでは勝利5割超えと、どのサーフェスよりも高い勝率を残している。フットワークを生かし、とにかく粘り、カウンターでエースを狙う。そんなテニスが、今回の全仏で光った。
3回戦、同じウイルソン・プレーヤーのディミトロフ(RPO STAFF 97S)戦は試合序盤にリードされたもの、逆転しストレート勝ち。続くラオニッチ(BLADE 98 18×20 CV使用)戦では、「今までにない新たな感覚をつかめた」という。ビッグサーバー、ラオニッチに5セットの末に勝利。「キャリアで最も大きな勝利だ。約4時間半、5セットはあまりにもタフだった。でも、ベストを尽くし、苦しい中で楽しむことができた」と語ったカレーニョ・ブスタ。続く準々決勝はナダル戦。「絶対に勝てないと思うなら、僕は戦わない」と自信をのぞかせて臨んだが、腹筋を痛めてしまい、第2セット0-2で棄権。それでも、グランドスラムベスト8はキャリアベストの記録。ラオニッチ戦でつかんだ新たな感覚は、今後、カレーニョ・ブスタのテニスをどう進化させるのか。今後の戦いが楽しみでならない。
全仏オープン第5シード。しかし、前哨戦のローマ国際では、決勝でハレプを破って優勝しているだけあって、優勝候補の一角として大会に臨んだ。
スビトリーナといえば、コートに突き刺さるかのような強打が売りのプレーヤー。フォアハンドはもちろん、バックハンドでもエースを奪うことができる。だからこそ、スピンに長け、パワーもあるBURN 100S CVという相棒を選択したのだろう。
シュベドワ(2-0)、ピロンコワ(2-1)、リネッテ(2-0)と3回戦まで順調に勝ち上がったスビトリーナだが、4回戦のマルティク戦で難局を迎える。相手の強打が大当たりして、第1セットを奪われてしまったのだ。続く第2セット第1ゲームもブレークされてしまった。「彼女のショットがものすごかった」というスビトリーナだが、ここから落ち着いてリズムを作ると、見事逆転勝利を果たした。これで2年ぶりとなる全仏ベスト8を達成。「スピリットを見せることができ勝てた。自信がついたし、ポジティブになれる」と笑顔で語った。
そして準々決勝、対戦相手はイタリア国際決勝で対戦したハレプ。第1セットから、強打が冴えて、6-3と先取。第2セットはきっ抗した展開となるが、マッチポイントを握る。しかし、決め切れず。ここから流れが変わってしまった。まさかの逆転負け。
「試合に負けたことは、とても悲しいこと。ただ、悪くはない試合だったし、明日からも私のキャリアは続いていくわ」
そう振り返ったスビトリーナ。全仏のタイトルまでは届かなかったが、まちがいなく、それを狙える一人になっている。自身の言葉どおり、彼女のキャリアはまだ続く。グランドスラムの舞台で、トロフィーを掲げる日もすぐそこまで来ているはずだ。