USオープン・プレビュー

2011.09 :: 2011 US オープン レポート

今年30歳のフェデラー&フィッシュ! 復活してきたセリーナに勢いのあるクビトワ&ギョルゲス!! 錦織 圭&グルビスの若手男子の爆発力にも期待!!!

R.フェデラーUSオープン前の8月8日に30歳になったフェデラー。しかし大会前そのことについて聞かれると、「30歳になったからといって、何も変わらないよ。まだ勝負に対して貪欲だし、数字が変わっただけさ。僕はアガシと05年にこのUSオープンで対戦したけれど、彼はその時が20回目のUSオープンで35歳だったと思う。僕はリラックスしてプレーするタイプだから、あと数年はこれまで同様高いレベルでプレーできると思うよ」とコメント。来年のロンドンオリンピックで引退するのではという噂もささやかれていたが、このコメントを聞く限り、まだまだ一線で活躍してくれそうだ。
そして、そのやる気満点の言葉通り、今回のUSオープンのフェデラー(第3シード)は、抜群の体&ショットのキレを見せた。1回戦でコロンビアのジラルドをストレートで退けると、2回戦でもセラにストレート勝ち。3回戦では第27シードのチリッチに1セットを取られたものの、4回戦ではモナコに6-1、6-2、6-0と3ゲームしか与えずに快勝。モナコ戦の試合後、「今日はリターンの調子がよく、サーブも自信を持って打てた」とフェデラーがコメントしたそのプレーは、ラウンドを重ねるごとに調子を上げていくという、かつての強いフェデラーを彷彿とさせるものだった。そして続く準々決勝では、ウィンブルドンで敗れているツォンガにストレート勝ち。ツォンガが対戦後に「最近、フェデラーはグランドスラムで優勝していないことで色々と言われているけれど、僕は彼が自信を持ってプレーしているときは、今でもどんなプレーヤーもかなわないと思う」と言うほど、攻撃力に優れたプレーを見せつけた。

こうして順調に勝ち上がってきたフェデラーは、準決勝でジョコビッチと対戦。ジョコビッチとは昨年のUSオープン準決勝でも対戦し、ジョコビッチ・サーブで15-40と2マッチポイントを握ったものの逆転負けを喫している。それでも今回は調子がいいためか、対戦前に「ここまでいいプレーができているから、ジョコビッチ戦でも自信を持って戦いたいと思っている」と自信をのぞかせていた。
フィッシュその準決勝、フェデラーは言葉通り最初の2セットを連取。鉄壁の守備力を誇るジョコビッチを得意の速い展開で圧倒した展開だった。しかし、フェデラーに疲れが見え始めた第3セット以降、2セットを取られても同じようにプレーするジョコビッチに対しフェデラーは要所でのミスヒットなどが続き、第3、第4セットを連続でジョコビッチに取られセットカウントは2-2に。
フェデラーにとってはイヤな流れで入った最終セットだったが、ゲームカウント4-3フェデラー・アップで迎えたジョコビッチ・サーブの第8ゲームでフェデラーがブレークに成功。続くフェデラー・サーブの第9ゲームで40-15と2マッチポイントを迎える。1年前はリターンゲームでの2マッチポイントだったが、今回はサービスゲームでの2マッチポイント。観客もフェデラー自身も勝利を確信したはずだ。しかし、ワイドに放ったエース級のサーブをジョコビッチにフォアのクロス・リターンで逆にエースを奪われると、続くポイントでも、それまで決めていたフォアの打ち込みがネット。結局、このゲームをブレークされてジョコビッチに5-5と追い付かれると、続く2ゲームも連取され昨年に続き準決勝でジョコビッチに敗退した。
ジョコビッチは、この後ナダルにも勝ち優勝。ジョコビッチ時代の到来と見ることもできるが、まだフェデラーにも光明はある。それは、試合を通じてフェデラーが攻撃するという姿勢が貫かれていたこと。そのショットが少しずつアウトやネットしたため耐えたジョコビッチが勝利したのだが、フェデラーが主導権を握っていたという見方をすることもできる。また、フェデラー自身も「大切なポイントでいいプレーができなかった自分にガッカリしているけれど、今年グランドスラム大会で一つも優勝できなかったことで、来年のオーストラリアンオープンに向けて意欲がますます高まってきているよ」とコメントしているから、まだまだフェデラーが魅力的なプレーで楽しませてくれるはずだ。


セリーナが本気になったら
セリーナ・ウイリアムズアメリカの観客は面白くなる試合を知っている。この日、センターコートのアーサー・アッシュ・スタジアム(約22,000人収容)ではなく、USオープン会場で2番目に大きいルイ・アーム・ストロング・スタジアム(約10,000人収容)に入ったドルゴポロフ×ジョコビッチ戦。これを見るために集まった観客はスタジアムに入りきれず、入場規制がかけられてスタジアムの外に300m以上に渡る長い列ができるほどだった。
そして試合の方も、期待していた通りに面白い展開となった。力強いショットをコンスタントに打ち込んで来るジョコビッチに対し、ドルゴポロフはサイドスピンをかけたバックハンド・スライスと、突然フラットで打ち込むフォア&バックというトリッキーなプレーで対抗。第1セットは、お互い1ブレークずつしてタイブレークまで突入する大接戦に。そして、そのタイブレークで6-5と先にセットポイントを迎えたのはドルゴポロフ。しかし、続くポイントでドルゴポロフのフォアの強打がアウトし6-6。この後、ドルゴポロフが3回、ジョコビッチが5回のセットポイントを迎えるもどちらもものにすることができず、タイブレーク14-14までもつれこむ。
結局、第1シードの意地を見せたジョコビッチがタイブレーク16-14でこのセットをものにすると、続く2セットを6-4、6-2で取り勝利したのだが、試合後「ドルゴポロフは1球ごとに違う種類のボールを打ってくるから、タイミングを合わせるのが難しかったよ。彼はどんなプレーをしてくるのか予想できない選手だ」とドルゴポロフの印象を語ったジョコビッチ。フェデラーとナダルを倒したジョコビッチでさえ警戒するドルゴポロフが、さらに経験を重ねてトップ選手をハッキリと脅かす存在になれば、ますます男子テニスが楽しくなって来るに違いない。



クビトワ、ギョルゲスの全米は?ここ数年、アメリカ・テニス協会はUSオープン約1ヵ月前から北米で行われる大会をUSオープン・シリーズとしてカテゴライズし、そのシリーズで獲得した合計ポイントの上位3名にUSオープンでの成績に応じてボーナスを支払う制度を導入している(USオープン・シリーズ優勝者はUSオープンで優勝すると100万ドルのボーナスがプラスされる。準優勝で50万ドル。ベスト4で25万ドル。ベスト8で12.5万ドル。ベスト16で7万ドル)。今年、そのUSオープン・シリーズでトップになったのがフィッシュ。アトランタ大会で優勝、ロサンゼルス大会とモントリオール大会で準優勝、シンシナティ大会でベスト4に入るなど、安定した好成績を収め、出場大会数が2大会と少なかったジョコビッチを押さえての1位獲得だった。
グルビスフィッシュは、08年に23位だったランキングを09年には55位まで落としていたが、10年は16位まで回復させ、11年4月4日にはロディックを抜きアメリカ人のトップランカーとなり、今回のUSオープンには第8シードとして登場。09年にランキングを落としたのは太って動きが鈍くなったのが原因で、09年シーズンの途中から栄養士を雇い、約13㎏の減量に成功。それが10年のランキング回復につながり、今年の躍進へと続いている。また、以前からサーブとボレー、フォアの強打と攻撃力には定評があったのだが、最近はディフェンス力も向上してきたのが好調の一因でもある。
そしてUSオープンでは、1回戦でカムケに合計で5ゲームしか与えずに勝利すると、2回戦で予選上がりのジャジリ、3回戦で身長203㎝のアンダーソンに共にストレート勝ち。今年12月に30歳になるベテランだが、若手のような勢いのある勝ち上がり方だった。しかし4回戦ではツォンガ相手にセットカウント2-1アップから逆転負け。それでも「この夏は、モントリオール大会でナダルに勝てたことがいい思い出になったよ」と北米のハードコート大会では確実な手ごたえをつかんだ様子。ランキングも8月15日は自己最高の7位をマークしているから、ベテランがこれからどんな頑張りを見せてくれるのかに注目だ。

あとはいつ弾けるか? 錦織&グルビス 7月のウズベキスタンとのデ杯後、右肩を痛め休養をとっていた錦織 圭だが、8月中旬に復帰すると、1戦目のシンシナティでは予選2回戦を勝ち上がり1回戦でナルバンディアンと対戦。負けたものの4-6、4-6というスコアは、休養明けのナルバンディアン戦ということを考えるとまずまずの出来だったはず。それを裏付けるかのように、続いて臨んだUSオープン前のウィンストン・セーラム大会では予選から勝ち上がり本戦3回戦まで進出(ベスト16)。改めてポテンシャルの高さを見せつけた。
グルビスそして臨んだUSオープン。昨年は3回戦、08年はベスト16ということ考えると(09年は欠場)、このUSオープンのコートは錦織と相性がよく、第2の故郷アメリカだけに今回も上位進出が期待されたが、試合序盤からプレーにいつもの精彩さや勢いがない錦織。結局、イタリアのキポラに6-4、6-2と2セットをリードされたところでリタイアしてしまった。実はウィンストン・セーラム大会が予選3試合+本戦3試合と6連戦だったため、大会前の土曜日から腰が痛くて満足にプレーできなかったのだ。「休養明けだったため、無理なスケジュールなのは分かっていたが、調整のために試合をこなしたかった」(錦織談)ことが裏目に出て、何とも残念な結果となってしまった。

錦織圭この錦織の試合の2日後、水曜日に登場したのが伊藤。大会のエントリー時に105位だった伊藤は本来ならば予選からのスタートだったが、予選1日前にラオニックの欠場が決まったためギリギリで本戦ストレート・イン。今回のUSオープンが初のグランドスラム出場となった。そして相手は第25シードのサウスポー、ロペス。試合の方は、7回あったブレークポイントの4個をものにしたロペスに対し、伊藤は5回のブレークポイントを一度もものに出来ず、2-6、4-6、4-6で敗退。それでも、伊藤は最高時速208kmのサーブを軸に、得意のフォア(ドラゴンショット)で10本のエースを奪うなど(ロペスは5本)、「緊張せず思い切りプレーできた」(伊藤談)と随所で伊藤らしさを見せた。だが「このレベルでプレーするとモチベーションが上がります。ストローク戦では互角にラリーできたところは自信になりましたが、ランキング20番台の選手と戦うには、もっとサーブの威力とコースなどを改善していかなければならないなど、まだまだ課題は多いです」と、違いも感じたようだ。しかし、違いが見えなければ追い付くことはできない。それが実感できただけでも、今回のUSオープンはこれからの伊藤の成長の確かな栄養となったはずだ。

あとはいつ弾けるか? 錦織&グルビス 錦織圭昨年7月に右足をケガしたため、今年6月のイーストボーン大会までツアーから離れていたセリーナ・ウイリアムズだが、ケガが完全に癒えた7月後半のUSオープン・シリーズでは完全復活。スタンフォード大会ではシャラポワ、リシツキ、バルトリらを破って優勝、トロント大会ではシャラポワ、アザレンカ、ストーサーらを下して優勝と2大会連続優勝。続くシンシナティは1回戦を勝ち、2回戦は欠場と、事実上ハードコートでは負けなしでUSオープンに乗りこんできた。
そしてUSオープン。1回戦は2ゲーム、2回戦は1ゲームしか相手に与えず圧倒的な強さで勝ち上がって来ると、3回戦で第4シードのアザレンカ、4回戦で第16シードのイワノビッチ、準々決勝で第17シードのパブリチェンコワ、準決勝で第1シードのウォズニアッキと、いずれもストレートで下して破竹の勢いで決勝まで勝ち上がってきた。錦織圭このセリーナのシードが28という低い数字だったため、早いラウンドで当たった上位シード選手はまさに災難というしかないだろう。
しかし、セリーナの勢いは決勝戦で急に失速してしまった。トロント大会決勝で6-4、6-2と快勝しているストーサーに対し、セリーナは試合序盤から覇気がない感じで、第1セットを2-6で落とすと、第2セットも3-6でストーサーに奪われ敗退。「今日はサーブの調子がよくなくて、勢いに乗れなかった」というセリーナの第1セットのファーストサーブの確率は35%。対するストーサーは63%。また凡ミスはセリーナの11に対し、ストーサーは4(第1セット)。さすがのセリーナといえども、これだけ調子が悪ければ、女子の中ではセリーナに対抗できるくらい力強いタイプのストーサーに勝つのは難しい。この決勝までの勝ち上がりからすると、少しもったいない決勝戦の出来となってしまった。


あとはいつ弾けるか? 錦織&グルビス 錦織圭昨年のウィンブルドンまでは、グランドスラムでは2回戦進出が最高だったペトコビッチ(10年末ランキングは32位)。しかし、10年のUSオープンで4回戦進出を果たすと、今年は、オーストラリアンオープンとフレンチオープンでベスト8。サーブ、フォア、バックと全てのショットにパンチ力があること、どんな状況でも貪欲にエースを奪いに行く姿勢を見せながら試合を展開していくのがペトコビッチの持ち味で、その攻撃の姿勢は「こんなに攻め続けていて、自滅しないだろうか」と心配になるほど。しかし、本人はそうしたショットでも、自分なりに変化はつけているらしく、「以前は大切なポイントで厳しいところを攻めてミスが続くことがあったけれど、今はそうした状況では攻撃的になりつつも、ある程度のネットの上を高く通して、ラインより少し内側を狙うなどマージンを持って狙う様になったわ」とコメントしている。それが結果に結び付いているのだろう。
そして第10シードがついた今回のUSオープンでも、ベスト8入り。準々決勝で第1シードのウォズニアッキに負けたものの、第2セットはタイブレーク5-7という大接戦。そのタイブレークでも壁のように返して来るウォズニアッキを崩そうと終始打ち続けて、最後まで自分のスタイルを貫き通した。その姿は、『妥協するよりも、徹底して自分のプレーを信じたほうが壁を破ることにつながる』いう信念を感じさせるものだった。

グルビス このペトコビッチと同じくベスト8に入ったのが第26シードのペンネッタ。3回戦で第3シードのシャラポワを破っての勝ち上がりだ。ペンネッタは、今年年頭は病気、4月は右肩ケガで大会欠場を余儀なくされたが、このUSオープンでは体調万全で、シャラポワ戦ではシャラポワがハードヒットで左右にボールを打ち込んでくるのに対しリズミカルなフットワークで対応し、最終的にはカウンターで決めるか、シャラポワの打ち過ぎのミスを誘う展開で勝利をものにした。
そして続く4回戦で第13シードの彭をストレートで下し、勢いに乗り準々決勝でも6月のバスターッド大会で勝っている左利きのケルバーを乗り越えて自身初のグランドスラム・ベスト4へ進みたいところだったが、フルセットにもつれたケルバー戦をものにできずベスト8。グランドスラム・ベスト8はこれで3回目だが、他の2回も奇しくもUSオープン(08年、09年)。今後、他のグランドスラムでベスト8に入ることができれば、09年8月にマークした自身最高の10位に迫ることができるはずだ(9月12日現在23位)。