2012 全豪オープンレポート

2012.01 :: 2012 全豪オープンレポート

錦織 圭は80年振りのベスト8!!

錦織 圭今回の全豪オープンで、日本人男子としてはグランドスラムで初のシード(第24シード)がついた錦織 圭。グランドスラムは32までシードがつけられるが、これはシード選手になると3回戦まで自分より上位ランキングの選手とは対戦しないことを意味する。男子のグランドスラムは5セットマッチで行われるため、1~2回戦でランキングが近い選手と当たると接戦となり、勝ったとしてもフルセットを戦うと体力を大幅に消耗してしまう。次の試合まで中1日の休みがあるといえ、蓄積される疲労は大きい。事実、錦織は2010年のUSオープン2回戦で第11シードのチリッチをフルセット5時間に及ぶ激闘の末に下しているが、2日後に行われたモンタネス戦ではチリッチ戦での疲労が回復せず2セット目の途中でリタイアしている。
その錦織は、1回戦で106位のロベールと対戦しストレートで勝利。シード選手としての気負いは見られなかったが、錦織は試合後「シードだと思うと余計なプレッシャーがかかるので、考えないようにした。いいプレーができたと思う」と語っている。また、この時「まずは、08年のUSオープンで記録したベスト16を目指したい」ともコメントしていた。ちなみに、通常、日本人の選手の記者会見には日本人記者しか参加しないため日本語のみの記者会見になることが多いのだが、今回の錦織の記者会見は1回戦から海外の記者が数多く集まり、英語での質問から始まった。それだけ注目される選手になったのだ。
そして2回戦、相手は地元のオーストラリアのエブデン。ランキングは94位と高くないが、サーブとフォアで押すプレースタイルのエブデンは、大勢の地元観客の大歓声を受けたこともあり絶好調。対する錦織は攻めすぎのミスが目立ち、セットカウント0-2とリードを奪われてしまう。しかし、ここから錦織が集中力を上げミスを減らし、確実に決められるショットが来るまでじっくり待つプレースタイルに変えると、それをエブデンは「第3セット以降、錦織がレベルを上げた」(試合後のコメント)と感じたようだ。この言葉はこれまで日本人選手が上位選手と対戦し負けた時に言うセリフだが、それを相手に言わせる錦織。3セットを連取し逆転で3回戦に駒を進めた。

錦織 圭これで錦織は、2年連続での全豪オープン3回戦進出。昨年はベルダスコに敗れたが、今年は試合巧者ベネトーに3-1で勝利。第2、第3セットはどちらもタイブレークとなったが、2度とも錦織が奪ったのが大きかった。試合後の記者会見で錦織は「闘志を前面に出して戦ったのがよかった」と語っている。そして、その闘志を切らさないまま臨んだ第6シードのツォンガとの4回戦。フルセットにもつれた大接戦を、最後は錦織がツォンガを振り切るかたちで勝利した。錦織は昨年のマスターズ1000上海大会でツォンガに勝っているものの、ツォンガは最終戦で準優勝、全豪の前哨戦ドーハ大会で優勝するなど勢いがあった。そのツォンガが「215kmのサーブを打っても、彼は返して来る。それがプレッシャーだったよ」と試合後にコメント。リターンゲームでは既にトップクラスであることを証明した。

そして錦織初のグランドスラム4回戦、相手は第4シードのマレー。試合序盤で42回のラリーが続くなどしたため、ラリー戦を得意とする錦織にもチャンスがあるかと思われたが、錦織が試合後「マレーはディフェンスがよくて簡単にミスしてくれないし、サーブがよくてあと一歩のところでブレークさせてくれなかった」とコメントしたように、15-40と錦織がブレークポイントを握ってもブレークできない場面が何度もあった。結局、錦織が10回のブレークチャンスで2回ブレークに成功したのに対し(20%の成功率)、マレーは18回のうち7回をものにしたことが差となり(39%)ストレートで敗れたのだが、マレーは錦織のことを「僕たちはすごく似たプレースタイルだと思う。フットワークがよくて、ストロークが安定していて、機を見て積極的にネットに出て相手にプレッシャーをかけていく。違ったのは、背の高さだね。僕のほうが高いからサーブに威力が出るので、それで勝つことができた」と認めている。6-3、6-3、6-1というスコアはマレーの強さを示しているが、対戦したマレーがスコアほど自分の優勢を感じていない様子だったことが、これからの錦織への期待へとつながるものだった。


伊藤竜馬はグランドスラムで初の2回戦へ!!
伊藤竜馬昨年のUSオープンに続き、グランドスラム2大会連続出場となった伊藤竜馬。昨年のUSオープン時は本戦に入れるかどうかギリギリのランキングで、本戦ストレートインが決まったのは予選前日。それが今回は、どうしても本戦に届かないランキングだったため伊藤は予選を戦うため早めに会場に入ったところ、トーナメントディレクターから「君にワイルドカードを出す」という電話を受けたのだ。本戦にストレートインできなかった24歳以下のアジア・オセアニアの選手では、伊藤が一番高いランキングだったというのが、ワイルドカードの理由だ。辰年生まれの竜馬、今年はいい流れに乗れそうな予感があった。
そして1回戦、07年に27位をマークしたスタラーチェと対戦。相手は、これが30回目のグランドスラム、対する伊藤は2回目のグランドスラムだったため、伊藤が緊張して本来のプレーができないことが懸念されたが、フタを開けてみると「自分のテニスをして勝つ」という強い意志をもって臨んだ伊藤が、得意のサーブとフォアでプレッシャーをかけ第1セットを6-3で先取。第2セットは4-6で奪われたが、「自分のサーブをしっかりキープできていたし、リターンを返せていたので相手が焦っているのかわかった」と冷静に状況を分析していた伊藤が、続く2セットを連取しグランドスラム初勝利。この伊藤の試合の前、同じコートで錦織が1回戦を勝利していたのだが、日本人男子2人が揃ってグランドスラム2回戦に進出したのは1974年の全仏オープン以来のこと。この後、錦織が日本人として80年ぶりのベスト8に進んで話題を独占するのだが、錦織に続く選手が出てきたことは男子日本テニス界にとっては明るいニュースとなった。

伊藤竜馬続く2回戦、勢いに乗った伊藤は、191cmの長身から打ち下ろして来るサーブを武器とするマウを相手に第1セットを6-1と先取する。そして第2セット、タイブレークまでもつれたもののタイブレーク6-2と4セットポイントを握ったのは伊藤。この第2セットを奪っていれば、勝利の確率は非常に高くなっただろう。しかし、ここからマウが6ポイント連取する大逆転で第2セットを奪う。さすが、2010年のウィンブルドンで史上最長となる11時間5分の試合を演じたマウ。伊藤は、試合後このタイブレークを「それまでは強気で攻めていたのに、相手のミス待ちをする守りに入ってしまった」と悔やんだ。そして、このセットを取れなかったことは、まだグランドスラムでの経験の少ない伊藤にとっては大きなショックとなったようだ。「その後の数ゲームで集中力を欠いたプレーをしてしまった」という伊藤のスキをマウが逃すはずがなく、第3、第4セットはマウが取り勝利。試合後、「第2セットを取られたとはいえ、あの時点ではまだセットカウント1-1。5セットを1パッケージで考えれば、あれほど気落ちしなかったかもしれない」とコメントした伊藤。確かに残念だったが、そうした考えができるのは、これからまだまだグランドスラムで勝ち上がっていく可能性を秘めているからなのだろう。錦織とともに、もっと日本のテニス界だけでなくスポーツ界を盛り上げる活躍をしてくれるはずだ。