全豪オープン、USオープンといったグランドスラム大会だけでなく、マイアミ大会などATPツアーでもオフィシャル・ストリンガーを務める細谷 理氏。同じ日本人ということで、今年の全豪オープンでは錦織 圭や伊藤竜馬のストリンギングを行ったが、「今回は、気温の差に気を使いました」と言う。全豪オープンが開催されるこの時期、メルボルンは暑くなり気温も朝から高いことが多いのだが、今年のメルボルンは予選が行われていた週は曇天が多く、気温も20℃前後。しかし、本戦がスタートすると快晴の日が続き、気温も35度前後に。一気に15度も上がってしまったため、テンションも1~2ポンド上げたり下げたりしなければならず、錦織をはじめ各選手はそのセッティングに苦労したようだ。
また今年は、午前中が曇りで午後になると雲がなくなり晴れることが多かったため、1試合目に入るのか3試合目に入るのかで、その時の気温が大きく異なり、そのことでもポンド数のセッティングに苦労したようだ。選手によっては、6本のラケットを持っているのであれば、52ポンド2本、53ポンド2本、54ポンド2本と少しずつテンションを変えて試合前に用意するプレーヤーもいるのだが、錦織は5本すべてを同じテンションで張ってコートに持ち込み、実際に使ってみてフィーリングが違えば、試合中に1~2本の張り替えを出す(これを『オンコート・ラケット』と言う)のがパターン。そのため、最初のセッティングが違っていると、オンコート・ラケットの数が増えてしまう。ストリングを張るのには、それなりの時間がかかるため、数が増えるとその間に試合が終わってしまうというリスクがあるのだ。
今年の全豪オープン、「特に大変だったのが2回戦の対エブデン戦です」と細谷氏は言う。3試合目に入ったこの試合は16時ごろに入ったのだが、この時間は急に気温が上がるタイミング。そのため、錦織は1セット目の途中でオンコート・ラケットとして2本張り替えに送ってきたのだ。そして、この2本を張り上げて錦織の元に送った時には、錦織がセットカウント0-2でダウン。しかし、ここから盛り返した錦織が第3セットを取り、第4セットに入ったところで、またも2本のオンコート・ラケットが。この試合には錦織が勝ったものの、細谷氏は「テンションが合っていない」と、今後の試合に向けて非常に気になったようだ。
しかし、それを改善し、結果として結び付いたのが4回戦のツォンガ戦。これまでの教訓を生かし、錦織と話し合った細谷氏は、この日は試合2時間前に行う練習で錦織に最終的なテンションを決定してもらうことに。
試合まで2時間弱しかないため、張り上げがギリギリになるというリスクがあったものの、「何とかいい試合をしてほしい」と細谷氏の願いがあったのだ。
そして、皆さん既にご存知のとおり、錦織はフルセットの末、ツォンガに勝利。この日のオンコート・ラケットは、コートが暑さで盛り上がるというアクシデントで中断していた時の1本だけで、ストリングのセッティングという面で考えると、錦織にとっては余裕を持って臨めた試合となっていたのだ。