ウィンブルドン・プレビュー

2012.06 :: ウィンブルドン・プレビュー

試される先制攻撃力
やはりクビトワの攻撃力は魅力であり武器となる

クビトワ昨年の女子を制したのはクビトワ。彼女の最大の武器は、サービスとフォア。中でも高く跳ね上がったボールに全体重を乗せて放つようなフォアは強烈の一言で、たとえボールに追いつけたとしても有効打はおろか、ラリーをイーブンに戻すためのスライスすらまともに相手に打たせない威力がある。
ウィンブルドンは、近代テニス発祥の地であり、サーフェスは伝統の芝。その特徴は、球足が速くなることだけではなく、選手たちの機動力をある程度以上制限してしまう部分にもある。クレーではトップスピードのままで打点に飛び込んで行っても、スライドフットワークを使える選手であれば、体の姿勢を維持しながらスイングに移れるが、芝ではまずスタート時のキックで滑ることがあり、ストップ時も同じ。芝用のシューズはピンが立った独特の形状をしており、そもそもスライドフットワークには向いていないのも、こうした状況に拍車をかける。

クビトワつまり芝では、サービスも含めて先に決定打をオープンスペースに打つことの優位性が非常に高くなる。また、リスクと安定性を秤に掛け、ポイントできる確率が少しでも高いならリスクを取る勇気さえもが試されると言ってもいい。 その意味では、クビトワは今年も有力な優勝候補になりうるし、また、全仏では決定力を生かし切れなかったアザレンカも再び浮上できるはず。
「先に打てば返って来ない(確率が高い)」という状況を生かせるかが芝の最大のポイントになる。
それはもちろん自分にも跳ね返って来る要素ではあるが、ラケットを振り抜いた選手だけが利点にできる。その意味で、闘志で戦うクビトワやアザレンカには期待していいだろう。


7勝目を狙うフェデラーそして錦織&伊藤の活躍も期待できる!
フェデラー 男子ではフェデラーの逆襲を期待したい。
過去6勝の実績が、オープン化以降最多であるサンプラスの7勝まであと1つに迫っているからという理由だけでなく、ジョコビッチやナダルにツアーの主役の座をやや奪われ気味な彼が、最も輝きを増すのが芝のウィンブルドンだからだ。

フェデラーの正確無比なサービス力と、ストロークからネットプレーに至るまでの数多くの戦術は、防御ではなく攻撃のために組み立てられたもの。先制攻撃力という意味では、男子で最も高いスキルを持つのがフェデラーだ。スタミナ面では全盛期に比べてややダウンした傾向が見え隠れしているとはいえ、芝では経験と技術の占める要素が格段に上がる。フェデラーが復活するとすれば、この芝のシーズン以外にはありえない。
逆にここで復活をアピールできれば、この後に続く北米のハードコート・シーズンでのプレゼンスも増し、優位に試合を運べるようにもなるだろう。フェデラーにとってのこの夏はまさに正念場となる。

伊藤竜馬 全仏でマレーを相手にその攻撃力の凄まじさを見せたのが伊藤竜馬。
得意のフォアが炸裂している時間帯では、あのマレーを後方に押し込んで防戦一方の展開を強いたが、マレーがあの手の手段を取るのは対フェデラーや対ジョコビッチなど、攻撃力で完全に相手が上と認めた時だけ。それだけ伊藤の攻撃が凄まじかった証拠と言ってもいい。

最後は経験と試合運びの巧さの差を見せつけられたが、芝でもあのテニスの再現ができれば、どんな対戦相手にでも勝機を見出せるはず。 長年本格的な改修がなされなかったことで、地面が硬くなったという今のウィンブルドン本戦会場の芝では、バウンドも以前のように低く滑るものではなくなっていることも、伊藤の背中を押すだろう。ミスを恐れず攻撃に徹すれば、必ず道は開けるはずだ。

錦織 圭 錦織 圭にももちろん期待はしたいのだが、前哨戦に予定していたハレの出場を見送り、間に合ってもぶっつけ本番なのが気がかり。いきなりでも力の出せる選手ではあるが、すべては故障の回復次第となれば、いい予測を立てるのは正直厳しい。

しかし、すべてが万全であれば、クレーで「使い減り」がしていない分だけ、消耗し切った他のプレーヤーたちよりも有利に出る可能性もある。

キーとなる先制攻撃の機会を見つけ出す嗅覚においての錦織は、今のランキング以上、すでにトップ10クラスにいると見てもいいだけに、体調の回復を今は祈りたい。



ラオニッチとセリーナが飛躍の予感
ラオニッチ さて、他に楽しみなウイルソン勢と言えば、男子ではまずラオニッチ、次いでベルギーのゴフィン、女子ではウイリアムズ姉妹ということになる。

猛烈なサービスとフォアの強打を誇るラオニッチの憧れの選手はサンプラス。タイプ的にも芝の適性は高く、初めてまともな体調で出られそうな今大会は注目の選手からは外せない。また、全仏で一躍注目されたベルギーのダビド・ゴフィンは、エナンをして「この子がダメだったら、しばらくベルギーの男子はダメかもしれない」というほどの逸材。まだ線は細く、体格にも恵まれないが、それを補ってあまりある運動神経の持ち主で、芝ではヒューイットのような活躍ができるタイプだろう。現時点で高望みはできないが、全仏で得た自信と経験が生かせる展開に持って行ければ、思わぬ番狂わせを演じるかもしれない。


セリーナ女子では敢えてこの位置まで落としての言及となってしまったが、ウィンブルドンのウイリアムズ姉妹はほぼ別格の存在だ。 全仏での結果がどうであれ、ウィンブルドンの彼女たちを侮ることはできない。特にセリーナは、逆襲に目の色を変えているはずで、今回も優勝候補の筆頭に挙げてもいいほど。
全仏の1回戦敗退も逆に、大事な芝のシーズンに向けて準備のための時間ができたとぐらいに考えていても不思議ではないし、実際、すぐにそう切り替えているはず。

サービスでリターンでストロークで、全てのショットで相手を蹂躙する実力を今も維持しているのがセリーナ。機動力に若干の不安はあるが、芝における彼女のボールを相手に、その欠点を突ける選手などほとんどいない。 今年のウィンブルドンは、実績のある選手たちと、新鋭の激突が期待できるという意味で、また一段と面白い年になるのではなかろうか。