30歳という、テニスプレーヤーとして一つの節目を迎えたフェデラーが臨んだ今回のウィンブルドン。過去、5連覇を含め6度の優勝を誇るフェデラーにとって、それは今後のプレーヤー人生の指針を決めるうえで大きな分岐点だったと言えるだろう。
1回戦はランキング43位のラモスに合計3ゲームしか与えずストレート勝ち、2回戦は68位のフォグニーニに合計6ゲームしか与えず、「芝の王者」に相応しい貫録を見せての勝ち上がり。
ところが、続く3回戦で様相は一変する。対戦相手は、第29シードのベネトー。オールラウンドでサーブ&ボレーも駆使して果敢に攻めるベネトーは、フェデラーを上回る速い展開で何と最初の2セットを6-4、7-6(3)と連取する。思わぬ展開にセンターコートは騒然としたが、しかしベネトーにとって、芝の上のフェデラーに対する2セットアップは決して安全圏ではなかった。第3セット以降、特にリターンゲームで集中力を高めたフェデラーが、6-2、7-6(6)、6-1と鮮やかな逆転勝ちを収めた。「2セットダウンになった時には、とにかく落ち着くこと。残されたチャンスは少ないからね。タフにプレーするように努め、ポイントごとに集中することだ。当たり前に聞こえるかもしれないけれど、それが正しいことなんだよ」。フェデラーはそう振り返った。
続く4回戦の相手は、75位のマリース。フェデラーは第1セット、第7ゲームを終えたところでメディカルタイムアウトを取り観客を心配させたが、ゲーム再開後は不安のないプレーで7-6(1)、6-1、4-6、6-3と勝利を収め、ベスト8進出。「第1セットの初めから背中に違和感があったんだ。(前の試合で)5セットを戦ったことや、今日は風が冷たかったことの影響だと思う。でも、もう大丈夫」。30歳という年齢を考えれば、幾つかの故障や痛みを抱えながらのプレーは不思議ではないが、「もう大丈夫」というフェデラーの言葉が真実であることは、続く準々決勝で第26シードのユーズニーに合計5ゲームしか与えず、ほぼ完璧に封じ込めたことで証明された。過去13戦全勝という対戦成績もさることながら、この試合のフェデラーのプレーには「力み」がまったく見られず、すべてのショットには伸びとキレがあった。「今日は攻撃的にプレーしたけれど、特にサーブが良かったね。今日の自分のパフォーマンスを本当に嬉しく思うよ」(フェデラー)。
そして、昨年のチャンピオンであり、現在のNo.1であるジョコビッチとの準決勝を迎える。過去26戦してフェデラーの14勝12敗と拮抗する2人の対戦だが、不思議なことに、芝での対戦はこれが初めて。ということは、ウィンブルドンでの顔合わせも初めて。大会2週目は頻繁にシャワー(にわか雨)に見舞われた今年のウィンブルドンだったが、この日の試合はそのシャワーに備え、センターコートは屋根を閉めて行われた。序盤からフェデラーはファーストサーブを確率高く入れ、エースの数も第1セットだけで5本を数える絶好調。さらにラリー戦でも、芝というサーフェスが生み出す展開の速さはフェデラーに味方し、ジョコビッチのミスを誘った。ジョコビッチは状況を打破するべく果敢にネットに出る姿勢も見せたが、余裕を持ったフェデラーのパッシングの餌食になるだけ。スコアは、フェデラーの6-3、3-6、6-4、6-3。「ノバク(ジョコビッチ)のような昨年結果を残している選手に勝つのは、いつだって気持ちのいいことだね。ここで勝つことにはたくさんの意味があるんだ。グランドスラムの最多勝記録や、No.1に復帰することもそうだ」(フェデラー)
そうして、フェデラーが決勝で相対したのは、地元イギリスの期待を一身に浴びた第4シードのマレー。この日も天候は不順だったが、センターコートの屋根を開けて試合開始。そして、初優勝へのプレッシャーを感じさせない伸び伸びとしたプレーのマレーが第1セットを先取。マレーはネットで難しいボレーを決めるなど、ウィンブルドンの決勝の舞台に相応しいプレーを見せた。そして、そんなマレーのプレーに対応すべく、フェデラーもショットの精度を上げて第2セットを奪い返し、試合は第3セットへ。しかし、ゲームカウント1-1、フェデラーのサービスゲーム40-0となったところで雨による中断。そして屋根を閉め、“インドア”となって再開された試合で、フェデラーのプレーは準決勝のジョコビッチ戦で見せたスピードを取り戻す。再開後、マレーのサービスの第6ゲームで、フェデラーはファーストの入らないマレーにプレッシャーを与え続け、実に10度に及ぶデュースの末にこれを破ると、体力を消耗したマレーを突き離して、4-6、7-5、6-3、6-4のスコアで、3年ぶり7度目のウィンブルドンの王者に輝いた。
過去2年間、ベスト8に終わっていたウィンブルドンで再び栄冠を手にしたフェデラー。「僕がウィンブルドンでどれかけ勝ちたかったか、その思いをショットに込めて、『できるんだ!』と信じてやってきた。それが、今日のこの結果につながった。20歳や25歳の頃とは明らかに違うけれど、僕には自分が築いてきた地位がある。そして、それをこれからも維持していきたいと思うよ」とコメント。ウィンブルドン7度の優勝は、レンショー、サンプラスと並ぶタイ記録。グランドスラムは通算17勝目となり、この勝利によりジョコビッチからNo.1の座も奪回した。ウィンブルドンで、「史上最強のテニスプレーヤー ロジャー・フェデラー」が甦ったのだ。