今年のUSオープンの注目ポイントはいくつかあるが、男子はいわゆる「4強」が、調子の波をどう合わせて来るかにかかっており、女子はセリーナ・ウイリアムズの心身の状態がどうか、という部分が軸となる。
ウィンブルドンを制し、ロンドン五輪でも銀メダルと活躍したロジャー・フェデラーの場合、今季は好調さの裏返しで、試合数がかなり多い。勝っていることそのものはもちろんマイナスにはならないのだが、大会までに31歳を迎える彼の疲労度の蓄積はやはり気になる部分。恐らく、追い込んだトレーニングはさほどできないままで本番を迎えることになりそうな今、身体的に最もタフと言われる夏のハードコートの上で、彼が最後までパフォーマンスを維持できるかどうかが心配される。
フェデラーは勝てばUSオープン6勝目となり、ジミー・コナーズやピート・サンプラスなどと並んでいる最多優勝1位タイから抜け出して単独トップに立つチャンスではあるのだが、ロンドン五輪の金メダル獲得で自信をつけたアンディ・マレーや、逆襲の機会をうかがっているであろうノバク・ジョコビッチ、復帰が叶えばの話だが左ヒザの故障で戦線離脱していた分だけ「フレッシュ」な状態で大会に入れるラファエル・ナダルらの包囲網を突破できるかは正直未知数だ。また、今季はロンドン五輪を含めフェデラーと6度も対戦し、全敗しているファン・マルティン・デルポトロだが、徐々に接戦を強いる形を作れるようになってきており、得意の北米ハードコートで遂に逆転するというストーリーも可能性としては小さくはない。だが、いずれにせよ、今年のUSオープンはフェデラーの状態次第で状況が変わる。彼が最も要注目の選手なのは間違いない。
錦織 圭は春のバルセロナで傷めた腹筋の故障からの回復は、どうやら順調な様子なのが心強い。得意のUSオープン、地元とも言えるアメリカ。昨年は1回戦の途中で棄権負けしていたこともあり、内心期する所は大きいはずだ。錦織がUSオープンで強いのは、環境に慣れているというのももちろん大きいが、何と言ってもイレギュラーがなく、彼の正確なフットワークが生かせるという部分にある。素早く、そして正確にポジションを取れるため、攻撃の起点を自由自在に作りやすいのが彼にとってのハードコート。攻守で彼の良さが最も見られるのはUSオープンだ。ランキングやシード順で言えば、4回戦が最低限のノルマ。ここで当たるであろうトップ10クラスを食い、ベスト8以上への進出は、彼にとっては目標ではなく課題と言っていい。期待したい。
もう一人の日本男子、伊藤竜馬にとっても思い切りラケットを振り抜きやすく、持ち前の攻撃テニスを生かしやすいUSオープンの環境は戦いやすいはず。ドロー運に左右される立場とはいえ、まずは初戦突破、そして勝てるだけ勝つという強い気持ちで戦ってほしいところだ。
さて、女子はと言えば、やはりセリーナ・ウイリアムズ次第という状況になるだろう。セリーナが大会に勝つつもりで調子を整え、コートに立っている限り、彼女の優位性を揺るがすのは恐ろしく困難を極める。昨年の決勝でサマンサ・ストーサーが見せたような完璧さが要求されるからだ。
ビクトリア・アザレンカとペトラ・クビトワにとってのUSオープンは、今も変わらず「挑戦」となる舞台だが、今回はアザレンカにより大きな期待ができそうだ。絶好調だった今季前半を経て、一時はやや失速気味になったものの、ここに来て再びテニスそのものは上向き気配。強化されたフォアと持ち前のバックの攻撃力は安定感を増しており、サービスとリターンの出来が勝敗の鍵と、その課題を明確にできるレベルまで上げてきている。
今の彼女に勝てる選手はセリーナや、絶好調時のマリア・シャラポワ、キム・クリスターズなど数えるほど。決勝進出を果たせれば、初優勝にも手が届くところにいると見ていい。
問題はクビトワ。何がそうさせているのかは不明だが、彼女はここまで北米の大会をあまり得意にしていない。プレースタイル的には特に問題になる要素はないため、気分次第という部分もあるのだろう。しかし、もしフィーリングの問題だと言うのなら、一つ勝てればがらりと変わる可能性もなくはない。彼女の攻撃テニスに火がつけば、そう簡単には止められない。初戦を含めて、いつ彼女に火がつくかが注目される。その爆発力では女子屈指。そろそろ大きな仕事を期待したい。
セリーナのテニスを粉砕する可能性がある選手の筆頭は、今もやはりクビトワ。彼女のテニスがさらにもう一段階化けるとすれば、このUSオープンの可能性もある。やはり注目しておきたいところだ。