WTAツアー最終戦は、過去1年間(52週間)の成績が反映される通常のランキングではなく、1月にスタートする今季の成績上位8名が戦う、文字通り『今季の女王』を決める大会。
8名を4名ずつの白と赤の2グループに分けて総当たり戦を行い、上位の2名が決勝トーナメントに進むスタイルになっている。
その白グループに入ったのはアザレンカ、セリーナ・ウイリアムズ、ケルバー、李。
赤グループはシャラポワ、ラドワンスカ、クビトワ(1試合を戦った後、ウイルス性疾患で棄権し、ストーサーに交代)、エラーニ。
今年のグランドスラムチャンピオンが全員揃う豪華メンバーだ。
タフなシーズンを過ごして来ているだけに、それぞれ万全とは言いがたい状態となってしまうのも毎年のこと。
最終戦は単にトップ選手たちのパフォーマンスの激突という意味ではなく、『最後の最後まで勝ち切れるタフさを見せられるのは誰か?』という視点も必要になる。
結果から先に言えば、セリーナの圧勝劇となったのが今年の最終戦だった。
やや苦戦したのはラウンドロビンの李戦ぐらいのもので、ウィンブルドン決勝の再現となった準決勝のラドワンスカ戦も全く隙を見せることなく勝ち切り、
決勝のシャラポワ戦では集中力の高さを見せつけてシャラポワのサービスを強烈なリターンで打ち砕いた。
大会前、「グランドスラムで4連勝の[セリーナ・スラム]を達成した10年前と、
今を比較するとどう思うか?」と聞かれたセリーナは、「その02年よりも今年のほうが大きいことを成し遂げたような感じがする。02年にはケガもしていなかったし、復帰しなければならない状態でもなく、大きな問題を抱えてもいなかった。ただ流れに身を任せていたような感じだったけれど、今回は違う。いい時も悪い時も経験して、数多くの栄光や悲劇を経た上でのシーズンだった。
ひとつひとつの勝利に、より感謝する気持が強くなったわ」と今季の自分のほうが以前よりも上だとし、「私は勝利を愛しているの。前とは少し変わったのかもしれないわね。
今はコートに出ることが大好きになってる」と続けている。
プロテニス選手にとって、テニスは純然たる職業。
時には辛かったり、さぼりたくなるのも人情というもの。だが、やる気に満ち、成果が次々と上がる時は仕事も楽しくて仕方がないことがあるが、
今のセリーナはそんな状態なのかもしれない。
一方、アザレンカには、さすがに疲れが見えた。最終戦前の秋シーズンでは北京、そしてリンツで2勝。
好調さをアピールした反面で、休む間がなかったことが土壇場で災いしたようだ。
準決勝のシャラポワ戦で敗れた後、「確かに今日の私が完全にフレッシュな状態だったかと言われれば、そうは言えないけど、そういうことを試合の勝ち負けの理由にはしたくない。
私はそういうタイプじゃないの」と話し、「マリアは本当にいいプレーをしていたわ。彼女は100%勝利に相応しいプレーをしていたと思う。だから、私には何の後悔もない。もっといいプレーができたはず、もっと動けたのではないかと言われても、もう終わってしまったことだもの。
笑顔で試合を終えられたのは初めてよ。なぜかわからないけど、今はそんなに悪い気分じゃないの」とコメントした。
全豪オープンでグランドスラム初優勝を果たし、その後もハードコートでは圧倒的な強さを見せつけていたのが今季のアザレンカ。
さらに今季だけで6つのタイトルを取り、年間No.1も決めた。USオープンではセリーナに決勝で敗れたが、展開は全くの互角で、来季に大きな期待を抱かせる内容だっただけに、彼女の中にも確固たる自信が育っているのだろう。
セリーナが全てのプレーでそのソリッドさを見せつけたのがこの最終戦だったが、一方でアザレンカやシャラポワもその強さに磨きをかけつつある。
「リオ五輪を目指すわ」とセリーナがまだまだやる気十分なところを見せれば、アザレンカは「今年は3位でスタートして、1位で終えることができた。
数字で言えばすごいジャンプアップをしたわけではないけれど、年間を通じて戦えたことは大きな意味を持つわ。
今の私は以前とは別人。より成熟した選手になれたと思う」と自身の成長をアピールしている。
セリーナとアザレンカはなぜかウマが合うようで、セリーナは「私の妹のような存在」とアザレンカを高く評価しているのだが、アザレンカもまた、セリーナに対する深い尊敬の念を隠さない。
お互いに全ての能力が高く、そして攻撃的。
“セリーナのようなテニス”を安定してできる選手が誰かとなれば、アザレンカということになる。
来季の女子テニスは、この二人が演じる壮絶なライバル争いがその中心になるのでは、そんな予感を漂わせた最終戦だった。