グランドスラムに出てくる選手たちはいずれも「才能」のある選手には違いないが、その中でもさらに飛び抜けたものを持つ選手たちもいる。特に、選手間で「彼がテニスに真面目に取り組んだら...」と言われる選手は本物だ。
そんな選手の一人がアーネスト・グルビス。投資ビジネスで成功した父親と有名女優の母親を持ち、彼が5歳でテニスを始めた時に祖母がプレゼントしてくれたのが「テニスコート」。ツアー随一の資産家の家に生まれ育ったのがグルビスだ。トミー・ハースが「ATPのポイントが金で買えるなら、1位は常にグルビスだよ」と笑い話にしたこともある。経済的には何一つ困っていないし、無理に稼ぐ必要もない。本人もあくまでも精神的に自由であることを望み、これまでの選手生活でもオフコートでの破天荒なエピソードがてんこ盛りというユニークな人物だ。
しかし、2年前に今のコーチのギュンター・ブレズニック氏と組むようになってからは、テニスに真剣に打ち込むようになった。「練習に遅刻したのもたった1度だけだ」とグルビスは話し、彼のことを良く知るジョコビッチも「グルビスは完全に以前とは変わったよ」と話している。
今回の全仏オープンでは4回戦でフェデラー、準々決勝でベルディッチを倒し、自身初のグランドスラム・ベスト4進出(使用ラケットは日本では未発売のSTeam 99)。準決勝ではジョコビッチに敗れたが、「自分の人生を最大限に生きたいんだ。金や名声のためじゃなく、自分にとって本当の幸せや安らぎのためには、テニスコートで成功することが必要なんだよ」と真剣な顔で話していたのだが、そうしてメンタルが成長したことが、快進撃の大きな要因になったことは間違いない。
これまで全仏では3回戦進出が最高だったラオニッチだが、今年は3回戦で地元シモンとの大接戦を制し(4-6、6-3、2-6、6-2、7-5)、4回戦ではクレーのスペシャリスト・グラノラーズを破ってのベスト8だけに大きな価値がある(準々決勝でジョコビッチに敗退)。彼の強さは言うまでもなく強力なサービスを軸にしたサービスゲームの圧倒的な支配力だが、フォアハンドの強力さも見逃せない。また、1年ほど前から『ネットプレーを積極的に仕掛けよう』という意思も高く、ポジションを上げた状態でのリターンでの反応も悪くない。そうした総合力がついてきたことが、これまでどちらかと言えば苦手としてきたクレーで結果を残せることに結び付いた。
ちなみに、大会中に記録したサービスの最速は時速226kmで全選手中2位タイ。ファーストサーブでのポイント獲得率は80%で、1試合しか戦わなかった選手を除けばカルロビッチに次いで2位。敗れた準々決勝のジョコビッチ戦でも79%を記録していた。クレーでも彼のサービスは盤石で、十分に武器となっていることを証明している。
そして今回の快進撃を支えたのは、このサービス力をベースにしたフォアとリターンだった。クレーによりラリーでの球足がやや遅くなることで生まれる時間的な余裕を利用し、積極的にフォアに回り込んで叩きウイナーを量産。4回戦のグラノラーズ戦で記録したウイナーは19本だったが、その内の18本がフォアからのもの。相手のグラノラーズには1本しか許していない反面、バックでは10本ものフォーストエラーを強いていることから、ラオニッチのフォアの逆クロスがいかに有効だったかを物語っている。「ハードコートでやっていたことと同じことを続けているよ」と話すラオニッチだが、それがクレーでも出来るようになってきたことが、彼の本格化の時期が迫っていることを証明していると言えるだろう。
「難しいことを簡単にやってのける」という表現は、これまでフェデラーや錦織などに使われてきたが、この表現はハレプにも当てはまる(愛用ラケットは日本未発売のSTEAM 99)。「私が気をつけているのは、ベースライン付近に留まってプレーすること」と彼女が自分のテニスを説明する時のセリフは実にシンプルで、「相手を動かしてオープスペースを作り出すのが私のプランよ」とケロリとした顔で言ってのける。が、『ベースライン付近に留まる』とは相手からのスピードボールや深いボールに対しても下がらず処理するということなので、それだけミスヒットや甘いボールとなるリスクも高くなるのだが、ハレプは平気でパワーボールを打ち返す。
それを可能にしているのが、彼女のフットワークの良さ。ボールへの入り方が毎回完璧なのだ。しかもただ足が速いだけではなく、彼女はボールに入った時点でどこにでもスイングを出せるスペースを確保している。だから相手はコースが読めずに反応が遅れ、時間と空間の主導権を明け渡してしまう。こうなると、あとは空いたスペースに必要なスピードのボールを流し込むだけ。一見、プレーに派手さはないが、着実にポイントを重ねているのは、そのためなのだ。
また、そもそもボールにスピードを加える能力が高いことも見逃せない。同じようにスイングしているのに、ボールが伸びる選手とそうでない選手がいるものだが、彼女は軽く振っただけでもボールにスピードと回転を加えるセンスがある。いわゆる「ボールの飛ばし方を知っている選手」なのだ。だから打球姿勢が乱れず、ラリーでの連打でもミスが出ない。
決勝のシャラポワ戦では、シャラポワがハレプのキャパシティを超える守備力と球威で押して来たため、彼女の方程式が崩れてミスの山を築いたが、これは経験を重ねることで克服されていくだろう。また一人、グランドスラム優勝を狙える若手(1991年9月27日生まれの22歳)が出てきたことで、女子テニス界は面白くなるはずだ。
11年にはウィンブルドンを除く3つのグランドスラムでベスト8に進出し、最高ランキング9位を記録したものの、その後は足首や腰、ヒザの故障などを次々と起こして低迷したペトコビッチ。13年は177位からの出直しとなったが、今年3月のチャールストンでおよそ3年ぶりのツアー優勝。復調過程にあったが、全仏1回戦で土居美咲と6番コート(客席数1077人)で戦っていた時に、彼女がセンターコートで決勝進出をかけて戦うとは誰も予想していなかったはずだ。
第10シードのエラーニを下しベスト4に進出した後の記者会見で「最悪だったのはケガをしていた時期じゃなく、復帰した後に昔のようにプレーできないと感じた時期だったわ」と語ったペトコビッチ。「私は楽天的な人間だから、ケガをしていた時期は逆に希望があったのよ」と話しているが、「トップ10に入った頃に、私はケガをして色々と失った。だから、勝って、自分が前進していると感じた時にはまた失うんじゃないかって怖くなるの。でも、私は人生の勉強を積んできたわ。だから、壁の向こう側に行くことの意味を知っているし、幸せな時間に感謝できるようになったのよ」と笑顔を見せていた。
以前のペトコビッチはパワフルだがどちらかというと不器用な選手で、それは今も大きくは変わっていないが、すべてのプレーで余計な力が抜けナチュラルになったぶんだけミスが減少。またプレーのキャパシティが広がり、鍛え上げたフィジカルを生かしたテニスを出せるようになってきた。「私がドローに恵まれたという人もいるかもしれない。でも、偶然だとは思っていないわ」と言い切るペトコビッチ。そうしたことからも、人間的に成長していることが伺える。それが、テニスの強さにもつながり、今回の躍進に結び付いたのだ。