全仏オープン2015 REPORT

全仏オープン2015 REPORT

全仏オープン2015 REPORT
フェデラー、衰えぬ闘志
フェデラー

4回戦でモンフィスを下し(6‐3、4‐6、6‐4、6‐1)、準々決勝で優勝したワウリンカに敗退(4‐6、3‐6、6(4)‐7)という今年のフェデラーの全仏オープンは、さほど悲観するような結果ではない。むしろ、ベテラン勢が体力的にタフな全仏オープンをスキップしていく中で果敢に挑戦を続け、ネットプレーも織り交ぜた多彩なプレーで勝ち抜いていく姿を見せたことの意味は大きい。

「高い軌道のボールも使ったし、チップショットで短いボールも打った。色々と試したよ。全てをやって全仏オープンを去れる」とコメントしつつも、「でも、それはとてもタフなことだ。第1セットに戻れるならぜひそうしたいけど、それはできない」と話している。それでも、「テニス選手というのは、負けてしまったらがっかりするもので、悔しいものなんだ」と相変わらず闘志を維持できているのは心強い。


地元を沸かせたモンフィス
今年の全仏オープンは、フランス勢の活躍が大会の序盤から中盤を盛り上げた。ベスト4に進出したツォンガを始め、4回戦にシモン、ガスケも勝ち残り、モンフィスもまた連日のフルセット勝ち(2回戦&3回戦共にセットカウント1‐2ダウンからの逆転勝ち)で観客を大いに沸かせた。

モンフィスこのモンフィスは結局、日没順延で2日がかりとなった4回戦でフェデラーに敗れてしまったのだが、フェデラー戦では体調を崩して発熱していての敗退だったという彼にとってのハイライトは3回戦のクエバス戦だったのではなかろうか。会場はコート・スザンヌ・ランラン。相手はクレーの猛者クエバスで、単発での球威での勝負ならむしろ相手が上という条件の試合はフルセットとなったのだが、モンフィスの全仏でのフルセット勝ちの数は、実はオープン化以降最多。それだけ彼がフルセットを戦っているということなのだが、「僕だってできればストレートで勝てた方がうれしい」と言いながら微笑む姿には、どこまでが本音なのかがわからない不思議な魅力がある。

モンフィスは「観客たちが自分のプレーで沸くことのほうが、勝利よりも大事だ」と話したこともあるショーマン。圧倒的な才能を試合の最初から最後まで集中して出し切れば、その言葉通りストレートで勝てる試合も多いはずだが、どうしたわけかスーパープレーと凡ミスのミックスとなり、彼を応援するファンは常にハラハラさせられる。クエバス戦でも同じで、第4セットを奪ってセットカウント2‐2に追い付いた時には、興奮が高まった観客たちが「ラ・マルセイエーズ」を大合唱して彼に声援を贈り、彼はそれに答えて勝利した(4‐6、7‐6(1)、3‐6、6‐4、6‐3)。最後は観客たちと一体となったプレーを見せた彼に、クエバスのメンタルが崩れたという形の勝利でもあったのが印象的だった。

これまでの彼とフランスのファンの関係は、いい時も悪い時もあった。一時は「勝つ気がないのか?」とさえ批判されたこともあったが、どうしても期待してしまうのがモンフィスという選手の憎めなさで、魅力なのだろう。



2年ぶりの全仏は不完全燃焼となった伊藤竜馬
2年ぶり2度目の全仏オープン本戦出場となった伊藤竜馬。1回戦からフォニーニ(第28シード)という不運はあったが、クレーコートシーズンは4月のヒューストンで1試合を戦っただけで、あとは台湾と韓国のハードコートのチャレンジャーを戦っての全仏オープンという日程の組み方は、ローランギャロスで戦う選手としては厳しいものだったのは間違いない。伊藤竜馬ランキングで100位前後の選手たちは、グランドスラムの本戦に出られるかどうかが死活問題。少しでもポイントが取れるチャンスが大きいほうの大会を優先するという気持ちはわかる。伊藤にとってのクレーはベストのサーフェスではないからだ。だが、惜しいという気持ちもある。彼は2012年の全仏オープンでマレーを相手に堂々の戦いぶりを見せ、その底力を見せつけたこともあるだけに、クレーの準備を整えて全仏を迎えられていれば、また違った結果も出せたのではないかと思えるからだ。

試合は、クレーを得意とするフォニーニのほぼ一方的な展開だった。伊藤もボールに食らいついて粘りは見せていたが、フォニーニの自在なコース展開に振り回され、テニスをさせてもらえずにスト レートで敗退(3‐6、2‐6、2‐6)。「今は色々と考え過ぎてしまっている。普通にプレーすればいいはずなのに、色々と考えてしまっている」と精神的なスランプに陥っていると試合後の伊藤は話していたが、全仏前のスケジューリングに関しても「後悔が残っている」とも話していた。

しかし、彼の悩みもフィジカルが向上し、技術も付いてきたことの裏返しで、自分にできることが増えてきたからこそのものだというのはプラス材料だろう。「見え始めたらいける」という彼の言葉が、この後の芝、そして得意のハードコートシーズンで発揮されることを今は期待しながら見守る時期なのだろう。

女王セリーナ、グランドスラム20度目の優勝
「セリーナが本気になったら、結局誰も敵わない」と話したことがあるのはマルチナ・ヒンギスだが、このセリフを彼女が言ったのは、もう15年近くも前のこと。33歳となったセリーナが、今なお同じだけの存在感を女子ツアーで示し続けていることの恐ろしさを感じざるをえない。

セリーナ今回の全仏オープンの優勝は、グランドスラム通算で20勝目。オープン化以降の最多は22勝のステフィ・グラフで、歴代最多は24勝のマーガレット・コート・スミスだから、セリーナの20勝は歴代3位ということになる。グラフの記録には早ければ今年のUSで追い付けるが、セリーナがそこで達成するとすれば、女子では1988年のグラフ以来の年間グランドスラムを達成しているということになる。そしてそれが、かなり現実味を帯びた雰囲気なのだ。

今年の全仏オープンでは寒暖の差の激しさからか、体調を崩す選手たちが男女に続出した。第2シードのシャラポワは「大会直前にインフルエンザの症状が出た」と言い、4回戦まで勝ち残れたのがむしろ奇跡的という状況。そしてセリーナもまた、大会中盤以降は体調が悪化の一途で、バシンスキーとの準決勝(4‐6、6‐3、6‐0)を勝った翌日はベッドから起きられず、サファロワとの決勝(6‐3、6(2)‐7、6‐2)も棄権するのではという噂がメディアの間には走ったほどだった。

実際、決勝も含めての7試合中、5試合がフルセット。それでも試合の要所を締めて勝利をマネージメントするあたりはさすがの一言だ。「19勝目を挙げた余韻がまだ続いていて、20勝目と言われてもまだピンと来ないわ」と話していたセリーナ。年間グランドスラムについて聞かれた時は、「セリーナ・スラムまではあと1勝ね」と答えて笑っていた。昨年のウインブルドンから数えれば、これでグランドスラム3連勝。体調を崩していても、苦手の全仏オープンで優勝してしまうのが今のセリーナ。彼女を止められそうな選手はまだ見当たらない。

サファロワ、天才レフティが本格化
サファロワデビュー当初からボールに勢いをつけられる独特のミートの感覚と、フォアの球威の凄まじさは注目されていたのだが、その高い球威に反比例するかのように精度が悪く、また、不安定さを覗かせることが多かったメンタルも試合で勝ち切れない理由だった。『天才』と評価されながらトップ20前後を行ったり来たりで、グランドスラムのタイトル獲得はチェコの後輩、クビトワに先を越されていた。普段は控えめな性格で、「感情の出し方もわからず、長い時間をかけて彼女と打ち解けてきた」と話しているのはコーチのロッド・ステックリー氏だが、そういうサファロワの性格が「大事な場面では、自分にプレッシャーをかけてしまうことにつながっていた」のだと彼は話している。

だが、今大会での彼女は、決勝の最後の最後という場面以外では、萎縮したようなプレーは一切見せなかった。ラケットは鋭く振り抜かれ、バウンド後には生き物のように跳ね上がっていくボールは、セリーナのストロークを度々詰まらせた。第2セット1‐4からの追い上げはセリーナの集中力が下がったこともあったが、それ以上にサファロワがそのテニスの質を上げたからと言った方がいいだろう。彼女の準優勝はフロックでも何でもなく、純粋にその力で勝ち取ったものだ。

最終日、マテック・サンズと組んだ女子ダブルスで、デラクワ/シベードワ組を破って優勝したサファロワは(3‐6、6‐4、6‐2)、「せめて1つはタイトルを持って帰りたかったから」と笑顔を見せていた。女子にまた一人、眩しいスターが誕生したと言えるだろう。


弾丸ストロークを武器にベスト8入りしたスビトリーナ
4月のコロンビア・ボゴタでベスト4、モロッコ・マラケシュで優勝と、全仏オープン前のクレーコートシーズンで結果を出していたエリーナ・スビトリーナ(第19シード)。それだけに、今回の全仏オープン・ベスト8も意外と言う結果ではないのだが、好調だった地元のコルネを4回戦で破って(6‐2、7‐6(9))のベスト8進出には価値がある。

スビトリーナその4回戦のコルネ戦は気が強いファイター同士の打ち合いとなり、ポイントを決めると大きなガッツポーズが繰り返された試合だった。特にスビトリーナが第1セットを先取して迎えた第2セットの中盤以降は、地元コルネを後押しするため場内のフランスファンもヒートアップしていっていたが、試合後、スビトリーナはこの時のことを「予想通りだったわ。だから私は落ち着いて自分のプレーをするように心がけたのよ」と涼しい顔で振り返っていた。そしてグランドスラムでは初のベスト8について聞かれても、「うーん、もちろん今まで一生懸命にやってきた結果なのだから、予想はしていたわ」と決して意外な躍進だという態度は見せずに自信を表情に現していたのが印象的だった。

そもそもスビトリーナは、2010年の全仏ジュニア優勝者(当時15歳)。ジュニア世界1位の経験を持ち、まだ今年の9月でやっと21歳の誕生日を迎えるという期待の若手だ。機動力が高いのが最大の持ち味で、ボールに体当たりするように入っていき、攻撃的な打点を確保すると、そこから強烈な角度をつけて打つストロークも強烈。この種のテニスはどんなサーフェスでも威力を発揮する。今大会のベスト8で自己最高の17位に浮上したことでさらなる自信をつけたようで、今季後半の女子ツアーの台風の目になれるかどうか、注目したい存在だ。