US OPEN 2016 REPORT

US OPEN 2016 REPORT

US OPEN 2016 REPORT 錦織 圭

錦織圭にとって、USオープンというのはグランドスラム(GS)の中でも特別な大会である。何より2年前は、準決勝でジョコビッチを破ってGS初の決勝進出を果たしている(準優勝)。昨年は1回戦負けしており、良い思い出ばかりではないものの、最も得意とするハードコートのGSであり、アメリカを拠点としている意味では、ホームでのGSという意味合いもある。  8月初旬、リオ五輪では銅メダルを獲得。すぐさま出場したシンシナティでのマスターズでは、2回戦で敗退。連戦の疲れは大丈夫なのか?そんな心配もされる中、USオープン開幕を迎えた。

錦織 圭大会1週目、1回戦の対ベッカー(ドイツ)、2回戦の対カチャノフ(ロシア)、3回戦の対マウ(フランス)はいずれもセットカウント3-1で勝利。フルセットこそないものの、どこか低調さが感じられ、2週目に向けて不安に感じる戦いぶりだったといっていいだろう。

ただ、そこは計算どおりだったのかもしれない。2週目の初戦、4回戦の相手はカルロビッチ(クロアチア)。ビッグサーバーだけに、リターンが重要なキーとなったが、「ヤマが当たった」こともあり、リターンは上々。試合を通しての集中力、ショットの精度も高くなるなど、スイッチが入った試合となった。3セット目こそタイブレークとなったが、今大会初めてのストレート勝ち。

「今日の試合はすごく良かった。2週目に入ってやっといいテニスができ始めている。次戦の準々決勝は(マレー戦)楽しみ。いい試合ができて、体力的にも問題はないので自信を持って臨める」

そして迎えた準々決勝、マレー戦。直前のリオ五輪では準決勝で完敗という内容だっただけに、当然簡単な試合にはならないことは明白だった。

第1セット、ショットの調子は良かったが、ファーストサーブが入らず。セカンドサーブを狙わると第4ゲームでブレークを許し、1-6で奪われてしまった。ただ、前試合後「強い気持ちで臨まないといけない」と言っていたとおり、これくらいで集中が途切れるような錦織ではなかった。雨による2度の中断(2度目に屋根が閉まる)があった第2セット、その間に作戦を変えたという錦織は、隙あらばネットに出ていく。それが功を奏し、5-4で迎えた第10ゲーム、マレーのミスを誘ってブレーク。セットを取り返した。第3セットは、両者で5ゲームをブレークするという展開に。その中でセットを奪ったのはマレー。あとがなくなった第4セットは、スピーカーからの異音、さらにコートに蝶々が舞うなど、想定外の出来事が続出。そのたびにプレーが止まり、マレーは明らかにいら立っていった。一方の錦織はどうかというと「反応するほど元気じゃなかった」とコメントしている。しかし「そういう時は逆に集中力がアップする」というように、6-1で第4セットを奪取した。第5セットも集中は途切れない。錦織が放つ強打が、信じられないほどの確率で入っていく。対するマレーは、それを何とか返すという状況。しかし、疲れも出てきたのか、錦織もミスを犯してしまう。4-3で迎えたサービスゲーム、40-30でネットに出ると簡単に決めると見られたボレーをミス。逆にマレーにブレークされると、続くゲームもキープされて、4-5に。それでも第10ゲームはラブゲームでキープ。錦織 圭そして迎えたマレーのサービスゲーム。30-40とすると、ドロップショットを放ち、ネットへ詰める。それに対してマレーはストレートにパッシング。マレー曰く"あのボレーは、毎回決まるようなものではない"、それを錦織はしっかり決めてブレーク成功。ポイントを決められたマレーは、ラケットでネットを殴りつける。それだけ感情が出るほどの状況だったのだろう。これで6-5とすると、最後のサービスゲームを奪ってついに勝利をもぎ取った。試合後は、スタンディングオベーションが鳴りやまない状態に。まちがいなく今大会№1と言える好ゲーム。それに対するオーディエンスの称賛の拍手だった。

世界No.2を破った。そして2年ぶりの決勝進出に向けて、準決勝で対戦したのはワウリンカ。第1セットは、明らかに準々決勝終盤の集中力を持続していた。ワウリンカのバック側に高く跳ねるボールを供給して強烈バックハンドを封じつつ、錦織の攻撃的なショットが次々と決まるほぼ完ぺきな内容で第1セットを6-4で奪う。第2セットも第1ゲームでブレーク。決勝進出に向けて死角なしと思われた矢先、第4ゲームでブレークされると、状況が一変する。錦織の調子が徐々に落ちていったのだ。そのセットを奪われると、錦織の状況はさらに悪化。強引とも感じられたネットダッシュでなんとか流れを取り戻そうとするが、第3セットは4-6、第4セットを2-6で取られ惜敗した。

「疲れて思考能力が低下した。徐々に動けなくなって、長いポイントもプレーが難しくなってしまった...」。記者会見で素直に語った錦織。それでも、「今、1番目か2番目に強いマレーに勝てたのは自信になる。最近、トップの選手にも勝てるようになってきたので自信を持って戦いたい」と前を向いた。
2年ぶりの決勝進出はならなかった。しかし、その夢がかなう日はさほど遠くはない。そう感じさせたUSオープンだった。


カレン・カチャノフ
カレン・カチャノフATPが"期待の若手"を紹介するキャンペーン、「NEXT GEN(=次世代)」。その1人にあげられているのが、カチャノフ(ロシア)。今回のUSオープンでは、予選から勝ち上がって、初のグランドスラム本戦出場。「とにかくハッピーだ」と語っていたが、さらに1回戦ではファビアーノ(イタリア)を下してGS初勝利も下している。

2回戦では、錦織圭と対戦。セットカウント1-3で敗れはしたものの、第2セットではショットが冴えて、第9ゲームをブレークして6-4で奪取。続く第3セットは「特に彼のプレーが良くなった」と錦織が言うとおり、ストローク戦で互角以上という局面が続いた。

そのプレーの特徴は一目瞭然。とにかく、ストロークの威力、スピードがケタ違いなのだ(もちろんサーブも強力だ)。それは、一部新聞では、「thunderous(カミナリのような)」とも形容されていることからもわかる。そのプレーを可能にしているのが、198㎝という身長だろう。これだけ大きいと、動けなさそうだが、フットワークは十二分に素晴らしいものだ。ただ、それよりも特筆すべきなのが、その思い切りの良さだろう。錦織を苦しめたのも、一か八かというショットが次々と決まっていたからだ。

まだ20歳と若いカチャノフだが、スターダムにのし上がるのも、時間の問題だろう。


カイル・エドムンド
それは今大会最初の衝撃だった。8月29日、USオープン初日の第1試合、プレスルームで外国人記者が興奮していた。「ガスケが敗れそうだ!!」。

相手はイギリスのエドムンド。21歳の新鋭だ。その若手を前に、2セットダウンしているガスケは、完全にリズムを失っていた。それに対して、強打を打ちまくるエドムンド。カイル・エドムンド両手バックハンドの威力もすごいが、輪をかけてすごいのが、フォアハンドの強打。何とストレートでガスケを下した。1回戦でシード選手が敗れることは、間々あることだ。だが、ガスケは「フォアハンドとサーブが、とにかくすごい。間違いなく大物となる選手だ」とエドムンドを称賛した。

続く2回戦でエスコベドを下すと、3回戦ではイズナー(第20シード)とアメリカ勢を続けて撃破。イギリスの新鋭は、準々決勝にコマを進める。  ここで待ち受けていたのが、王者ジョコビッチ。舞台はセンターコートのアーサ・アッシュ・スタジアム。そのメインイベントとなるイブニングセッッションということで、いやがおうにも注目度は高くなった。結果的に、試合はストレートで敗戦。ジョコビッチの老獪さに敗れた。「彼はこのステージに圧倒されていたようだ」とジョコビッチ。「とはいえ、あのフォアハンドには驚いた。どこからでも質のいいボールを打ちこめるのはすごいこと」と、その実力を評価している。

グランドスラムで4回戦進出は、これが初。躍進の理由は、7月のデ杯にあったという。エースのマレーは疲労欠場。その中でシングルスを戦い2戦2勝。「負けられないと言う状況での試合で勝てたことが自信になった」とエドムンド。「自分の良さである攻撃的なテニスができた。ただ単に攻撃的でなく、やりすぎないという部分がよかった。ただ、サーブをもっと上達させないと。フォアもさらに強化しないと。もっとトレーニングを積んで、すべてを進化させたい」と語った。

今回のUSオープンは、明らかにキャリアの岐路となるものだろう。カイル・エドムンド、その名前を覚えておいたほうがよさそうだ。


ダニエル・エバンス
「きっとキャリアベストウィンだね。メンタル的にも難しい試合だったけど、4セット目にカムバック(プレーが戻った)できた。今夜のプレーは上出来だよ」(A.ズベレフ戦後、ダニエル・エバンス談)

ダニエル・エバンス3人の選手が3回戦に進出するという1968年以来の快挙を成し遂げたイギリス勢。その一角として、光を見せたのが26歳のエバンスだ。2回戦では売り出し中の若手ドイツ人選手、A.ズベレフと対戦。序盤はきっ抗した展開だったが、徐々にエバンスのストロークが相手を追い込んでいく。単に深いショットだけでなく、アングル、回り込んでの逆クロスなど、効果的に打ちこんでいくと、相手を追い込んでいく。第3セットこそ奪われたものの、第4セットは、再びエバンスがステップアップ。これにズベレフは集中力を落とし、セットカウント3-1で勝利した。「正直に言うと、勝つとは思ってなかった」と本音も出た。次戦の相手は、初対戦となるワウリンカ。「(3回戦まで進出し、フェデラーに敗れた)ウィンブルドンの時のような調子。試合が楽しみだ」と語り、ワウリンカ戦に臨んだ。

グランドスラム2冠の相手。誰もがワウリンカが楽な試合をするに違いないと考えていたはず。ところが、予想どおりの展開とはならない。

この日のエバンスは、前試合以上の集中力、そしてアグレッシブなテニスを発揮する。6-4、3-6、7-6と先に2 セットを奪うと、第4セットも互いに譲らぬままタイブレークに突入。ここでエバンスは6-5とマッチポイントを握る。しかし、あと1本を決めることができず。ワウリンカにセットを奪われると、第5セットは「疲れが出てしまった」とエバンス。結局、第5セットは2-6で、金星は上げられず。それでも、この大健闘を見た人は忘れられない試合となったはず。勝ったワウリンカは、「試合を通じて、常にプレッシャーをかけられていた。彼には本物の才能がある」とエバンスを称えている。