コートチェンジの間、ベンチに座り、じっと一点を見つめて集中するその姿は、テニスプレーヤーというよりも、まるで求道者のような静謐さをたたえていた。
第13シードで臨んだビーナス・ウイリアムズ(アメリカ)は今大会、混戦の間隙をぬうように静かに勝ち進んだ。順当ならばシードどうしがぶつかり合う3回戦、4回戦はノーシードとの対戦となり、経験の差を見せつけて一蹴。そして準々決勝、第24シードで25歳のパブリチェンコワ(ロシア)との戦いを6‐4、7‐6(3)で制し、ベスト4入り。
準決勝で顔を合わせたのは、この全豪オープンの波乱の立役者の代表格ともいえるバンダウェイ(アメリカ)だった。バンダウェイは、4回戦では昨年の全豪オープンとUSオープンの覇者である第1シードのケルバー(ドイツ)をパワーで粉砕すると、準々決勝では同じく昨年の全仏オープンの覇者である第7シードのムグルザ(スペイン)に対して、戦意を喪失させるほどの一方的な展開で勝利を収め、新勢力の台頭を印象づけた。 36歳のビーナスと、25歳のバンダウェイ。新旧のアメリカ勢どうしによる準決勝は、プレッシャーも感じさせずビーナスに真正面から立ち向かったバンダウェイが、第1セットをタイブレークの末に奪い先行した。ビーナスが一歩も動けず見送るほどのストロークのスピード、角度、深さ、そして、少しふてぶてしさも感じさせるどっしりとした戦いぶりは、そのままバンダウェイの勝利を予感させた。しかしそれを覆らせたのは、グランドスラムの準決勝という重圧、そしてビーナスの存在の大きさだったに違いない。
グランドスラムとしては、2009年のウィンブルドン以来となる決勝進出を決めた直後、ビーナスは抑えきれないように喜びの感情を一気に爆発させ、そしてバレエダンサーのようにコートで舞った。
ビーナスは2011年に自己免疫疾患のシェーグレン症候群を発症。その後、選手生活を続けながら、病との孤独で静かな戦いが続いた。しかしその戦いも、バンダウェイに対する勝利で、ある意味、終わりを告げたようだった。
妹、セレナとの決勝を含めて7試合。36歳のビーナスは、2週間にわたるグランドスラムを最後まで戦い抜いた。そして、その戦いをともにしたのは「ブレード SW104 オートグラフCV」。「人は皆それぞれに光輝く時がある。私はしばらくそれを失っていたかもしれない。けれど、それを取り戻したの」。ビーナスに寄り添い続けたラケットは、最後に勝敗を超越した大きな喜びと、そしてまばゆいほどの輝きを彼女にもたらした。